「インドでわしも考えた」椎名 誠

2007/8/6作成

椎名誠氏の本もこれまで一度も読んだことがなかった。それを今回手にとることができたわけで、やはり今年の目標の企画はなかなかのヒットであったと自画自賛。

椎名誠氏は本の雑誌社というところで群ようこ氏と同僚だったそうである。群ようこ氏の文章は残念ながら私にはピンとこなかったんだが、椎名誠氏はピンときた。結構きた。キマクッタ。「無人島に生きる十六人」を再発見したのも椎名誠氏である。椎名誠氏は私にかなり合うのかもしれない。

本書はもちろん椎名誠氏によるインド旅行記である。本書には明確に時期が書いてないんだけど、発行年からすると1984年頃のことと思われる。いまやBRICsの一角として経済発展し、一面ではIT立国でもある現代のインドとは随分違うのかもしれない。いや、そうではないのかもしれんな。本書で語られるパワーあふれるインドがたった20年の年月やITや経済ごときでどうこうなるわけがないだろう。表面的に変わったところがあるかもしれないけど、多分根っこはずっと同じなんじゃないだろうか。って、インドに一度も行ったこと無い私が言っても何の説得力もないんだけど。

アメリカ細密バス旅行」で「旅行記は苦手」と書いたけど、紛れも無く旅行記である本書は面白い。何が違うんだろうか。もちろん旅行記だから旅程のこともある程度書いてあるんだけど、それだけではない。椎名氏は時に自分の感動を素直に絶叫の言葉にして記してもいる。絶叫系の紀行ライターといえば賀曽利隆氏であるが、賀曽利氏の場合は全編絶叫で暑苦しい部分もなくはない。一方、椎名氏の場合は時に冷静な観察者の目で語ることもあり、時にはおもしろおかしい文章で読者を笑わせもする。

巡礼者を家族旅行としたり、カレー=味噌汁論だったり、インド旅行の最大の目的が空中浮揚するヨガ行者を探すことだったりと無茶苦茶である。でもその無茶苦茶がいいのである。本書は面白かった。

(2007/8/20追記)

本書の冒頭に書かれているように椎名氏が本書のインド旅行をした頃には「インド=神秘の国」という見方が一般的だったと思う。また、旅の方法にしても近年のバックパッカーのように貧乏旅行で長期間にわたって放浪するのが正しいインド旅行であるとされてもいたと思う。

それに対して、椎名氏はあえてホテルに宿泊し現地ガイドを付け飛行機で旅行して回る。また、インドの神秘性の象徴としてヨガ行者を選び、そのインチキを暴きだす事によってインドの神秘性も吹き飛ばす。そして、吹き飛ばした後に、エネルギッシュで面白い国と言う新しいインド像を提示してみせたのではないだろうか。

というようなうがった見方のテーマを想像してみたんだけど、どうだろう。