オージーパートナー TT600R

2002/10/10作成

250cc or 600cc

事前に日本で調べた情報では、オーストラリアでは中古バイクもさかんに取引されているため、好きなモデルを自分の目で程度を確かめて選んで買うのが良いだろうということでした。しかし、実際にこちらに来てみてバイクショップに行ってみると随分と事情が違います。まず、バイクショップそのものが大変少ない。オーストラリアで一番大きな都市であるSYDNEYですら、バイクショップは十数件といったところ。しかも、ほとんどが中心部から離れた所に点在していますから、何軒もの店を回って見比べるという事はなかなか大変です。

そんななか、唯一SYDNEYの中心部にあるACTIONというバイク屋に行ってみたところ、中古バイクの品揃えもはっきり言ってよくありません。オフロードに限って言えば常備しているのは2、3台程度。これでは選ぶことすら出来ません。価格も程度にしては高めでした。もっとも、日本の感覚での程度という意味です。こちらでは、さびだらけで走行距離も半端ではないバイクでも、ちゃんと(?)整備さえしてあればいい値段で取引されているようです。これはオーストラリアのバイク事情ですから、日本の感覚を持ち込むことは出来ませんね。

余談ですが、どこのバイク屋に行ってもトレールよりもレーサーの方がはるかに在庫は多いのが、もう一つのオーストラリアのバイク事情をよく反映していると思います。公道を走るオージーはほとんど居ず、そこら中にあるダートを攻めるライダーの方がはるかに多いのでしょうね。

そんな状況の中でしたから、翌日2軒目に訪ねたREDBARONでも中古のタマ数がそれほどなかった時点で、予定変更。予算を大幅にオーバーしますが、新車を買うことにしました。REDBARONは他のメーカーも扱ってはいるものの、基本的にはYAMAHAのディーラですから、置いてあるオフロードモデルはTT-R、XT(日本のセロー)が中心になります。

わたしとしてはXTは最初から除外して考えていましたので、選択の対象はTT250RかTT600Rのどちらかになりました。わたしが日本で乗っているバイクはTT250Rですが、このバイクは本当に丈夫で良く走りますから、その点ではとても信頼しています。ではTT250Rにするかというと、日本でも乗っている同じバイクにここでも乗るというのは芸がありません。せっかくのチャンスですから違うバイクにも乗ってみたいです。それに、わたしは日本でも大型自動二輪の免許を持っているものの、当面大型バイクを買う予定はありません。これを機会に600ccのビックオフにも乗ってみたいという気持ちもあります。事前に読んだオーストラリアツーリング旅行記でも、みんな口をそろえて大排気量のバイクで走った方が良いと書いていました。確かに、広大なオーストラリア大陸をビックバイクで走るほうが気持ちよさそうです。

とまあ、TT600Rの方に傾く気持ちは大きいのですが、それを阻害する最大の要因は価格。TT250RがA$7000(約50万円)なのに対して、TT600RはA$9000(約63万円)もします。当初は中古でA$5000(約35万円)程度を考えていましたから、2倍近い大出費となってしまいます。という事で、理由を考えるとTT600R、でも値段を考えると…という堂堂巡りを繰り返し、ひたすら考え込んでしまいました。とっとと車種を決めてしまっていて、ただ単にわたしの考えるのに付き合ってくれた海星さん、どうもごめんなさい。

それでも、実はわたしも最初から結論は自分でわかっていたのです。TT600Rしか選択肢が無い事を。TT600Rを選んだことによる問題はお金だけです。一方、TT250Rを選んだらたくさんのことを後悔することになります。次回があるかどうかも分からないオーストラリアツーリング。お金は後からなんとかすることは出来ても、ここオーストラリアで遣り残したことを何とかすることは難しい。ただ、価格差を自分で自分に納得させるのに、どうしても時間が掛かってしまったのですね。

そうして、約2時間ほども考え込んだあと、ようやく結論をREDBARONのスタッフに伝えることが出来ました。

ファーストインプレ

どういうわけかLIVERPOOLの陸運局がなかなか外国人に対してナンバーの交付をしてくれなかったので、購入を決めてから1週間近く待たされましたが、それでもREDBARONのスタッフのみなさんの尽力でようやく納車となりました。ちなみにわたしは標準以外のパーツとして、21リットルのビッグタンクとリアキャリアをお願いしていました。そして、ようやく、感動のマイマシンとのご対面。ピカピカの新車がメカニックの手で私の目の前まで運ばれてきました。わたしもギア類を身につけていよいよTT600Rにまたがります。

…ここで正直に告白します。TT600Rに跨った瞬間、このバイクを買ったことを後悔しました。それは何故か。めちゃめちゃデカイのです! 頭ではでかい、重いという事は分かっていました。分かっていた積もりです。しかし、わたしは身長185cmありますので、まさかバイクがでかくて乗れない事は無いだろうと、たかをくくっていたのです。また、今にして思えば考えられない事ですが、買う前にバイクに跨ってみる事すらしていませんでした。おそらく、事前に跨ってみていれば、TT250Rの方にしていたことでしょう。

もう一つ、跨った瞬間に困ったことがあります。タンクがでかすぎるのです。標準の10リットルタンクでは、広大なオーストラリア大陸をツーリングするのにははっきり言って足りませんから、21リットルのビックタンクに換装するのは当然の事です。しかし、そのタンクはとてつもなくでかく、これではニーグリップできません。

それだけではありません。更に困ったのは、エンジンを掛けようとしたときの事です。TT600Rにはセルは着いていませんから、エンジン始動はキックです。わたしは最初に乗ったバイクがKDX125SRで、これもキックスタートしかありませんでしたから、キックには慣れている積もりでした。しかし、以前は125ccシングル、今度は600ccシングル。はっきり言ってキックが重いです。しかも、KDX125SRはシート高が800mmとかなり低めだったのでキックの姿勢が楽だったのですが、TT600Rはシート高が945mmもあります。キックする姿勢もかなりきついというか、左足をステップに乗せて立った状態で無いとキックできません。しかし、それでもエンジンが掛からないのです。正直、ちょっと泣けてきました。メカにトラブルがあるのかもしれないので、念のためREDBARONのメカニックにキックしてもらうと、難なく掛かります。しかし、エンジンを止めてもらってわたしが改めてキックするとかけらも掛かりません。バイクをスタートさせることすら出来ません。この時点では、TT600Rを選んだことを心底後悔していました。

結局その日はREDBARONのメカニックにエンジンを掛けてもらってスタートすることになりました。と言っても、すでに夕方でしたのでREDBARONのすぐ近くのモーテルに泊まることになり、もしも翌日もエンジンのスタートに失敗したらREDBARONまで押してくる約束にして、なんとかわたしとTT600Rのファーストコンタクトは終了したのです。

翌日、海星さんとわたしの二人でひたすらキックしました。しまくりました。これでもかと言うくらいキックしました。汗だくになるほどキックしました。このまま掛からなかったらどうしよう。返品するのかなぁ、とかなり泣きが入ってきたところでなんとか掛かりました。一度掛かったらもったいないのでそう簡単にエンジンを落とすわけにはいきません。慎重にアクセルをふかして回転を維持して、そのまま出発です。

それでももちろん休憩したりでエンジンを止める事はあります。もちろん、夜はエンジンを止めるしかありません。そして、翌朝にはまたキック、キック、キックです。それでもなんとか15分くらいひたすらキックすれば、なんとかエンジンが掛かる様になり、エンジン始動の心配はなくなってきました。しかし、わたしがエンジンを掛け始めると海星さんがよっこらしょとのんびり休憩を始めるのにはちょっと殺意を覚えましたけど(^^)。

キックの心配が無くなっても、それ以外の心配が無くなるわけではありません。やっぱりバイクは重いですし、ニーグリップは十分出来ません。幸い、オーストラリアの道はひたすらまっすぐなことが多いですから、昼間走っている分にはそれほど問題になるわけではありません。ただ単に、シートにどっかと腰を落として乗っていればなんとかなります。問題はまっすぐではない道です。2日目にはモーテルの駐車場内で取り回しに失敗してこかしてしまいましたし、4日目にたどり着いたBRISBANEの街では意外と坂が多くて入り組んでいる街中を走るのでへとへとになってしまいました。

慣れてきた頃

それでも人間、慣れとは恐ろしいものだということを、改めて実感させられました。なんせ、毎日毎日同じバイクに一日中乗っているわけです。キックをする回数だって半端ではありません。するとどうでしょう。だんだんこのとてつもないと思っていたバイクでも乗れるようになってきたのです。キックも数度くらいで掛かるようになってきました。キックに関しては、エンジンの慣らしが終わって馴染んできたことも大きいとは思いますが。

ニーグリップもなんとかなってきました。解決策は単純です。タンクがでかくてもなんでも、とにかくニーグリップするです(笑)。単純ですけど、結局それしか解決方法がないわけで、そしてその練習というか慣れるための時間は山ほどあるわけで。という事で、一度目のツーリングを終えてSYDNEYに戻ってきた頃には、自由自在とまではいきませんが、とりあえず乗るのには不自由が無いくらいには慣れてきたのでした。

そして、慣れてきたら最初の頃の不満は何のその。だんだんこのバイクが気に入ってくるというか(^^)。やはり、TT-Rですから信頼性は高いです。600ccの大排気量でありながら空冷ですから、街中の渋滞などをトロトロ走っているとオーバーヒートすることはありますが、それ以外はメカのトラブルには全く見舞われませんでした。そして、やはり600cc。パワーが違います。100km/hオーバーからでも楽々追い越し加速が出来ると言うのはやはり気持ちよいですね。わたしは別にスピードを出すのが好きなわけではありませので試していませんが、アウトバックの道で限界速度に挑戦してみたら、きっとかなりの速度が出せたのでしょう。また、大排気量という事で心配であった燃費も思ったほどではありませんでした。90km/h〜100km/h程度の燃費走行を心がけていると、20km/リットル程度の燃費は常にマークしていました。ビックタンクは21リットルの容量がありますから、無給油で約400km走れるわけです。これだけ走れると、ロードハウスの間隔が広いアウトバックでもひとまず安心です。

別れ

こうしてすっかりわたしに馴染んだTT600Rですが、走っているのはやはり異国の地、オーストラリア。わたしが日本に帰るにあたって、持って帰ることが出来るわけではありません。いや、厳密に言えば持って帰れるのですが、そうするには輸送料と関税という大きな負担が待っています。また、これだけ大排気量のバイクを狭い日本の道で走らせて楽しいのかと言う問題もあります。

という事で、出会った時から約束されていた別れの時がいよいよやってきました。当初の予定ではTT600Rを購入したSYDNEYのREDBARONで売却しようと思っていたのですが、諸般の事情でALICE SPRINGSでの売却となってしまいました。細かい経緯はオーストラリアツーリングダート編を読んで頂くとして、KAWASAKI系のバイクショップにA$2500で無事に売却する事になりました。

泊まっていたMELANKA BACKPACKERSの宿の前でバイクの引渡しの約束をしたので、バイク屋のトランポが来るのを待っていました。そしてやってきたトランポ。代金を受け取り、譲渡の書類にサインをしたら、もう愛車は愛車ではありません。他人のバイクです。バイク屋のオヤジがTT600Rをトランポに乗せ、そのトランポが走り出して見えなくなるまで、ただじっと立って見送るしか出来ませんでした。

走行距離にして約18,000km。期間にして約3ヶ月。短い付き合いだったと言えばそれまでかもしれません。でも、このバイクのおかげでわたしはオーストラリアの大地を走ることが出来ました。わたしはもう二度と乗ることは出来ませんが、出来ることならばいいオーナーに出会って、また元気にオーストラリアを走り回ってもらいたいものです。

画像

TT600R近影
TT600R近影
このナンバーを取るのにどれだけ待たされた事か
このナンバーを取るのにどれだけ待たされた事か

仕様諸元

寸法 全長 2,225mm
全幅 840mm
全高 1,225mm
最低地上高 310mm
最低回転半径 3,300mm(右)、3,100mm(左)
重量(燃料オイル含む) 154kg
エンジン タイプ 空冷4ストローク、SOHC
シリンダー 単気筒
排気量 595cc
ボア×ストローク 95×84mm
圧縮比 8.5:1
始動方式 キックスターター
燃料 タイプ 無鉛
タンク容量 10L
リザーブ 3L
その他 キャブレター TEIKEI Y30PV-2ATK
スパークプラグ DPR8EA-9/NGK or DPR9EA-9/NGK
クラッチ 湿式多板

あおやぎのさいと2.0ツーリングレポート