マンションの終活

2013/7/14作成

マンションの崩壊は不可避か」で書きましたとおり、今後おそらく多くの老朽分譲マンションが崩壊し放置されることになるでしょう。これは不可避です。もちろん、一部のマンションでは回避可能でしょう。しかし、全てのマンションで回避する魔法はありません。

そもそも、なぜこのようなことになってしまうかというと、それは終活という概念がマンションに無かったからではないかと思います。

終活というのは最近になって出てきた言葉ですが、要するに人生の仕舞い支度をまだ元気なうちから自分自身で行うということです。年老いて衰えてきてからでは、何をするのにも難しいです。ですので、気力と体力のあるうちに準備をしておこうというわけですね。この考え方はマンションにもそのまま当てはまるように思います。

マンションの竣工は人の誕生に相当します。病気や障害をもって生まれる人がいるように、マンションも手抜き建築などで問題を抱えて竣工することもありますが、それなりに多くの人が五体満足に生まれるのと同様に、マンションも大きな問題を抱えることなく竣工します。

竣工してしばらく、5年10年くらいの間は多くのマンションは健康でしょう。建物はまだ大丈夫ですし、管理組合会計もまだまだ余裕があります。1回目の大規模修繕工事までは無事におえられるマンションがほとんどだと思います。

しかし、20年30年経つと、だんだん違ってきます。躯体もだんだん痛んできます。住民も入れ替わりますし、そうする中には問題を抱えた人もいることでしょう。管理費や修繕積立金を滞納する人も現れ、結果管理組合会計もだんだん健全ではなくなってくるかもしれません。

40年50年経つ頃には、多くのマンションが終末期を迎えます。躯体や設備は痛み、住民は高齢化。空室も増え、コミュニティは崩壊。管理組合は会計が赤字なのはもちろん、運営自体がまともに行えない状態となります。人間でたとえれば、寝たきりになったり痴呆症になったりした状態と言えるでしょう。そういう状態になった人に、自分の人生の仕舞い支度をしろと言っても難しいのが現実でしょう。マンションにも同じことが言えるのです。コミュニティが崩壊し、管理組合は総会や理事会の開催自体が行えなくなった場合に、さてそのマンションでこれから何を行うことができるというのでしょうか。

人間の場合は、まだいいんです。最後には誰でも死にますから。それが当人や周囲が望んでいたのとは違った形かもしれませんが、ともかく死にます。孤独死して身元不明だったとしても、最後の砦として行政が後始末をしてくれます。それでなんとかなるようになっています。しかし、マンションにはそのような仕組みがありません。後始末をしてくれる法律や行政の仕組みがないのです。そもそも、マンションはほっておいてもいつかは死ぬということがありません。マンションに置ける死とは解体ですが、解体するためには管理組合による決議が必要です。しかし、その決議を行うための管理組合が機能していないとなると決議自体が出来ないのです。寝たきりや痴呆症の老人が不死者だったようなものです。このままでは永遠にマンションはそこに存在し続けることになってしまいます。

ですので、マンションにこそ終活が必要なのではないかと思うのです。まだマンションが若くて元気があるうちに、老朽化してスラム化した場合にどうするかを決めておく。よほど古いマンションを除いて、どこのマンションでも長期修繕計画はたてているとは思いますが、管理組合の解散や解体まで定めているところはあまりないでしょう。でも、それこそ実は盛り込んでおくべきことではないかと思うのです。

前述したとおり、老朽化してスラム化したマンションは寝たきりや痴呆症の老人に相当します。自分で自分ことを決断して実行するだけの能力がありません。なので、ある状態になったら自動的に解体を決定できる仕組みを作っておくことが必要なのではないでしょうか。その解体のための費用も、修繕とは別で積み立てておくのです。葬式の費用を準備しておくようなものですね。

もちろん、そのような状態で解体しても、まだ多くの問題は残ります。費用を積み立てておいても、実際に解体してみたら費用が不足するという場合に、その費用をどこから工面するかというのもあるでしょう。本来なら区分所有者が分担して負担するべきなのですが、スラム化したマンションでは多くの区分所有者が音信不通です。これでは負担のしようがありません。逆に解体して土地を売却したあとでいくばくかでも残余金が発生した場合。これも区分所有者で分配するわけですが、音信不通ではそれも出来ません。すべでの区分所有者と連絡が取れるまで理事長が預かっておくといっても、それも現実的ではないでしょう。理事長自身が高齢で老い先短い可能性も高いですし。となると、どこかに供託できるような仕組みが必要かもしれません。

そもそもの問題として、自動解体条項を管理規約に盛り込んだとして、それが有効なのかという問題があります。老朽化しているとはいえ、マンションを解体するということは区分所有者の私有財産を勝手に処分することになるわけです。いくら区分所有者が管理規約に同意していても、無効な規約と判断される可能性が高いように思います。なので、行政がスラム化したマンションを強制的に解体できるような法整備が必要なのだと思います。今後、スラム化マンションが社会問題となるでしょうから、そうした法律の必要性も言われるようになることでしょう。