日本版サブプライムローン

2012/2/8作成

少し前のことですが、次のような報道がありました。

「数年後の国債急落を想定 三菱UFJ銀が危機シナリオ」(http://www.asahi.com/business/update/0202/TKY201202010846.html)

日本国債が急落したわけではなくて、あくまでも「想定した」というだけに過ぎないわけですが、様々な事象は日本国債急落に向かって進んでいるようで、その序章の言えるのかもしれません。

もちろん将来のことは予測できませんから、日本国債が急落するとは限りません。これからも数十年に渡って国債金利は安定するかもしれません。それは誰にも分かりません。ただ、三菱東京UFJ銀行では暴落した場合に備えて対処方法を検討し始めたということです。

いや、その報道は多分正しくないな。三菱東京UFJ銀行ほどの大手金融機関が、これまで日本国債急落のシナリオを想定してなかった、ということは考えられない。債券運用を含めて投資においては、理想としてはあらゆる状況を想定して対策を練っておくのが常套手段です。地球滅亡とか、考えてもどうしようもないことは対策は練らないでしょうし、あまりにもありえない事態についても対策は後回しになるでしょうけれど。しかし、日本国債暴落というのはそんなにあり得ない事態ではないと思いますので、想定していなかったということは多分ありえません。問題は、それが「報道された」ということでしょう。この報道はどういうメッセージであるかを考えるべきではないかと思います。

ここから先は完全に個人的な見解になります。私は金融市場の専門家でもなんでもない、一介の市井の住宅ローン債務者に過ぎませんので、その素人が適当に思いつくところを書いているに過ぎないということを差し引いてお読みください。

私が考えるに、これは近い将来に起こる日本国際暴落への地ならしではないかと思います。大きなイベントが発生する前に、その予兆的な出来事が続くことはよくあります。日本国債暴落は実際に発生するとしたら数日程度のあっという間に事態は進行するでしょうが、その予兆的な出来事は事前にいくつもあるのではないかと思います。直近で言えば、欧州の重債務国の国債暴落もその一つでしょう。日本政府が多額の債務を抱えているというのも随分以前から指摘されていることですが、それも予兆の一つでしょう。その一連の予兆の一つが今回の報道かな、と私は解釈しました。

先の段落で「地ならし」と書いたので、それだとまるで国債相場を操縦する黒幕がいるかのようなイメージ(ネットで多く見られる陰謀論めいた論調)ですが、私は陰謀論はトンデモだと思っているので、そうした黒幕は居ないと思っています。実際のところとしては、国債価格は安定していた方がいいのは自明ですので、政府・日銀・財界など多くの人が国債価格安定に向けて努力を続けているのだろうと思います。ただ、その努力がそろそろ限界になりつつある。もうだめかもしれないというシグナル。そういったものが、この報道として出て来たのではないかなと思います。

さて日本国債が暴落したらどうなるか。それは様々な問題が多数発生するわけですが、とりあえず我々住宅ローン債務者にとって直面する問題は、住宅ローン金利の上昇です。

必ずというわけではありませんが、国債価格が暴落する(=国債金利が暴騰する)と、住宅ローンの金利も連動して上がります。となると、月々の返済額も増えます。これは家庭にとって大問題ですね。

もちろん全ての人の住宅ローン金利が上がるわけではありません。既に借りている住宅ローンについては、基本的には契約の通りの金利です。長期固定金利で借りている人は、国債価格が暴落しても金利も支払いもそのままです。問題は短期固定金利や変動金利で借りている人です。これらの人にとっては、金利が上昇しますので月々の返済額が確実に増えます。

さてここでようやく標題の日本版サブプライムローンです。 実際には 日本にはサブプライムローンと称する住宅ローンはありません。多分。もしあったらごめんなさい。ただ、それはこの記事における本質ではないので許してください。

サブプライムローンとは、主に低所得者向けの標準より金利の高い住宅ローンのことです。日本にはそういう住宅ローン商品はありませんが、それに代わって実質的に低所得者向けの住宅ローンとして機能していたのが、変動金利住宅ローンではないかと個人的に考えています。

ここ数年、実際には10年以上ですが、超低金利が続いています。そのため、住宅ローンにおいても、その低金利を最大限に享受するために、変動金利で住宅ローンを組むというのが随分広まったように思います。同じ金利環境においては、適用される金利は変動金利<短期固定金利<長期固定金利の順になりますからね。なぜ長期固定が一番高くなるかというと、将来的に金利が上昇した場合のリスクを織り込んでいるからです(この場合、リスクを受けるのは貸し手の金融機関のこと)。金利上昇のリスクを貸し手が抱え込まなくてよい変動金利は金利を安く設定できるわけですね。

金利が安くなるということは、住宅ローンを借りるときの審査において年収負担率が低く見積もられるということでもあります。本来なら変動金利で借りるならリスク要素を勘案して、年収負担率を厳しく見積もらなければならないのですが、住宅ローンにおいては貸し倒れリスクが非常に低いことからか、こうした年収負担率の見積もりの区別はあまり行われていないようです。要するに貸し手としては、取りっぱぐれる心配が少ないならリスクを織り込む必要がないわけです。

結果、変動金利の安い金利のまま通常の年収負担率の審査を受けることになります。これは、長期固定などの高い金利であれば審査が通らないような年収の人でも、変動金利なら審査が通ってしまうということになります。つまり、変動金利の住宅ローンが日本において実質的にサブプライムローンとして機能しているというわけです。

さて、このように変動金利でギリギリの住宅ローンを組んでいる人は、金利上昇するとどうなるでしょう。もちろん住宅ローンを返せませんね。その場合、せっかくの住宅を売ってローンを解消するしかないでしょう。アメリカでサブプライムローンが問題になったとき、その結果の一つとして大量の住宅が手放されて不動産市場にも大きな影響を与えたそうです。日本でも、同じことが起こる可能性は十分にあるでしょう。

変動金利住宅ローンは実質的に日本版サブプライムローンであると書きました。さて、では変動金利で借りている人はどうすればいいのでしょう。

といっても、他に金融資産を持っているなど、余力のある人は特に何もする必要はないでしょう。金利が急上昇しても支払能力はまだあるでしょうし、いざとなれば金融資産を処分して繰上げ返済してしまえば済む話です。問題は、そういった余力が無い人の場合です。もちろん、実質的な日本版サブプライムローンと書きましたから対象はそういった人たちになるわけですが。

理想的な対応策は、金利が低いうちに長期固定金利の住宅ローンに借り替えることです。そうすれば金利が上昇しても支払額は基本的には変わりません。では長期固定金利の住宅ローンに借り換えれば全て解決かというと、そういうわけでもありません。先ほども書きましたが、長期固定金利では変動金利に比べて金利は高く設定されています。ということは、審査も厳しくなるわけで借り換えられるとは限りません。そもそも、「変動金利の低い金利でようやく住宅ローンを借りられる層による住宅ローン」を日本版サブプライムローンと位置付けたわけですから、そうした人たちが長期固定金利の高い金利に借り換えることは難しいでしょう。

ということで、結論としては「どうしようもない」ということになります。すいません。みもふたもない言い方で。ただ、どう考えたって方法はないんです。日本国債が暴落したら住宅ローン金利も連動して急騰します。そうしたら、日本版サブプライムローン層と呼んで差支えの無い、変動金利でギリギリの住宅ローンを組んでいた人たちの住宅ローン破綻が相つぐだろう、という予想がこの一連の文章で書きたかったことです。それを予想したところで別にどうということはないのですが、そういう意見をこれまでに見かけたことがなかったので、とりあえず自分の考えとしてまとめてみたということです。

なお、念のために繰り返し書きますが将来のことは誰にも予測できません。日本国債が暴落することは、誰にも予測できないのです。暴落するかもしれないし、暴落しないかもしれない。ここで書きましたのは、あくまでも「暴落したらどうなるか」という話です。「日本国債が暴落することなんてあり得ない」とお考えの人は、それはそれで結構なのではないかと思います。