マンションを建替えてはいけない

2010/4/16作成

たまたま見たテレビで、多摩ニュータウンの団地での建替えをリポートしていました。20年掛けて住民の合意を取り付け、3年掛けて建替えるそうです。しかし、本当に建替えが最善の結論だったのでしょうか。既に建替えの済んだ事例も紹介されていて、そこでは住民が高齢化していたところに建替えによって増えた住戸に若い世代が入居してきたことで活気が出てきたとまとめられていましたが、果たしてそれはベストの選択だったのでしょうか。高度成長期に建てられたマンションが老朽化により居住に適さなくなってきているので、この問題は日本のあちこちで起こっている問題だと思います。

結論から言うと、私はマンションは建替えるべきではないと考えています。以下、理由を説明します。

マンション建替えにおいて採られるスキームは一般には、容積率をアップすることによって住戸数を増やし、増やした住戸を分譲して得られる代金を建て替え工事費用に当てるという方法でしょう。一見、誰も損をしない、いい方法に思えますが、果たしてそうでしょうか。建替えたマンションが30年50年経って再度老朽化したときに何が起こるかを考えているのでしょうか。

多摩ニュータウンのケースでは建替え合意形成まで20年掛かっています。改正前の区分所有法の時期があるので単純には考えられませんが、それでも一般にマンションの建替え合意を得るのはなかなか難しいです。そして、その難易度は、マンションの管理組合を構成する住戸数が増えるほどに上がることが予想されます。次の建替え時期にマンションの建替えの合意を形成するのは、今回よりも格段に難しくなるでしょう。

もう一つは、今回の建替えが容積率を一杯まで使い切ってしまったという点にもあります。容積率を使い切って住戸数を増やすことによって工事費をまかなったわけですが、次の建替えにはこの方法は使えません。なぜなら、もう住戸を増やす余地がないからです。では次回の建替えではどうやって工事費を工面するのでしょう。そこまで考えて、今回の建替えを決議したのでしょうか。ただ、この問題については希望が無いわけではありません。30年50年の間に建築技術が進歩して、今以上の容積率の建物が建てられるようになればいいわけです。そんなことが実現するという保証はありませんけどね。

建替えによって増えた住戸に若い世代が入居して活気が出るというのも、どうでしょうか。確かに、今は活気が出るでしょう。しかし、これも30年経てば、今の若い世代が老人世代になって、やはり活気の無いマンションということになるでしょう。

結局、マンションにおいて、持続可能なコミュニティ作りという視点が抜け落ちているのが問題なんだと思います。分譲マンションは竣工して一度に販売されますので、どうしても入居者の世代が偏ってしまうという問題があります。様々な世代が入居し、しかも常に新しい世代が入り続けるというのが理想なのですが、今のマンションの仕組みではそれは難しいです。都会の中の単棟マンションだったら、まだ問題は少ないです。周辺の地域を含めれば、持続可能なコミュニティが形成されるからです。しかし、ニュースで取り上げられていたようなニュータウンではどうでしょう。開発されたときは活気のある街だったかもしれませんが、住民の入れ替わりが行われなければ、時間が経てば老人ばかりの街になるのは自明なことです。ニュータウンにおいて、持続可能なコミュニティ作りが考慮されていないのは、大きな問題ではないかと私は思うのですが、いかがでしょうか。

話が随分それてしまいました。マンションの建替えの話に戻しましょう。既に書きましたとおり、私はマンションの建替えというのは、短期的にしかメリットを生まないので、行うべきではないと考えます。ではどうすればいいのか。それは、マンションを解体して更地にすることではないかと思います。解体工事費は最終的な土地の売却代金を当てます。その更地には、また新しいマンションが建つかもしれません。それならマンションを建替えるのと何が違うのかと思われるでしょうが、住人が入れ替わり、権利関係がリセットされるという点が違います。

建替えを希望する人というのは、つまりは長年住み慣れた街を離れたくないという点と、出来上がっている住民コミュニティを維持したいという点にあるのだろうと思います。しかし、建替えによってこれらは維持できるのでしょうか。多摩ニュータウンのケースでは建替え工事には3年掛かるそうです。その間、住人は当然の事ながら他の街で仮住まいをすることになります。そして3年経って工事が終わったら、本当に住人は戻ってくるのでしょうか。3年は長いです。仮住まいであったとしても、3年も住めば新しい街に馴染んで愛着も出てくるでしょう。それに、老人世帯にとって引越しの繰り返しは大きな負担です。仮住まいのつもりだったけど、結局そちらに住み続けるという決断をする人は決して少なくないのではないかと私は思います。実際、阪神・淡路大震災で倒壊したマンションを建替えても、避難先で新しい生活を始めてしまったために住人が戻ってこないというケースも多々あったと聞きますし。