会社の潰し方教えます

2022/2/23作成

こちらは私がかつて発表した同人誌のテキストです。文体がちょっと違うのはそのためですね。

私は個人事業主から始まって法人化してからも、ずっと全ての手続きを先生にお願いすること無く自分でやっていました。個人事業主時代の確定申告はもちろん、法人設立時の登記も法人の決算も社会保険手続きもです。そして最後に法人を精算するときの手続きも自分でやったんですね。その時の記録というわけです。

ぼかしたところだらけなんで実務の参考にはならないと思います。そもそもこの清算自体も2013年のことですので、現在では手続きが変わっているところも多々あるでしょうし。なんかまあ色々やってたんだなぁと、気軽な読み物として読んでいただければと思います。


■某月某日

私は自営業をしているんだけど、一応法人にしているのね。といっても自分ひとりだけの会社なんだけど。

一人ぼっちで長らくやってたんだけど、諸般の事情でそろそろ潮時かなぁと思ったり。無理して維持しても仕方が無いし、清算するのがいいかなぁとか思ったり。

■某月某日

法人の清算について軽く調べる。まずは解散登記をして、解散した謄本を持って税務署とかに行くのか。なるほど。うっかりしていたが、解散登記をするのにも印紙代がかかるんだ。おおう。そりゃそうか。何をするにもお金はかかるねぇ。

とりあえず総会を開催して解散を決議する。

■某月某日

清算のための手続きを調べていると、官報に公告とか出てくる。うわ。費用は3万円くらい掛かるんか。きっついなー。

■某月某日

銀行で会社の口座を解約。時間かかるかなぁと思ったら、意外とさくっと終わった。ToDo一つ完了と。あとは小規模企業共済の請求の書類を記入したり。

■某月某日

解散に関する書類作成。ぐぐりまくるわけだけど、解散を自力でやるなんてレアケースについて触れているページなんてめったになくて、なかなか苦労する。ともかく、なんとか書類が一通り出来たので、これを持って明日法務局に相談に行ってくるかぁ。

ところで、登記簿謄本についてはオンライン請求も出来るらしい。おお、それは便利だ。わざわざ法務局に行かなくて済む。ちょっとずつ世の中便利になっているなぁ。

ということでオンライン請求の会員登録もする。ただ、オンラインなのに昼間しかシステムが稼動してないってのはいけてないよなぁ。まあ、それでもやってるだけましなんだけど。そして、これって凄いな。居ながらにして全国の法人が検索できる。登記簿もさくさく請求できる。流石に登記簿をオンライン閲覧できるとまではいかんけど。わざわざ法務局まで行かなくても法人調査が出来るね。

■某月某日

法務局にやってくる。解散登記だけど、念のために事前相談。書類はほぼ問題なしだけど、議事録に捺印されてないのを突っ込まれる。自筆署名なら問題ないはずなんだけどなぁ。そこらへんの文房具屋で三文判買ってきて押してもらえればとかって、それを法務局の人間が口にするのはどうかと。でもなんとか受理してもらえた。完了予定日までに連絡がなければ登記完了。補正の有無を電話で確認する必要はないのって昔からだったっけ。

ちなみに解散登記の印紙代は3万円。たっけー。設立登記よりは安いけど。

その次に税務署へ。とりあえず法人解散に必要な用紙を貰う。提出には解散の完了した謄本が必要だから今は無理。

■某月某日

ふと思ったが、法人が解散を決議して以降は法人の財産は債権者のものだから清算人であろうとも勝手に処分できない。のが原則だと思うんだけど、そうすると登記の印紙代とかは誰が出すんだろうという素朴な疑問が。清算人が立て替えておいて、あとで清算するのかな。

■某月某日

清算に関する書類を作っていく。ネットに転がっている例文をコピペすればいいやと思ったけど、やっぱりそう簡単にはいかんな。付け焼刃でも一応は理解して作成しないといけない。ということで四苦八苦。ともあれ、ぐぐって調べて勉強して、だいぶ理解してきた。債権者保護の官報公告も準備は一応出来た。でも出稿しても掲載までは結構時間掛かるのね。

■某月某日

今日までに補正の連絡がなければ登記完了。連絡がなかったので完了したはず。さっそくオンラインで請求手続きをするが、これって人力で承認しないと次に進めないのね。うーん、いけてないシステムだなぁ。もちろん、窓口しかないよりはよっぽどいいんだけど。

■某月某日

法務局から登記簿謄本きたー。やったー。解散の記載があるー。これで一つ完了。さっそく小規模企業共済と年金機構に手続き書類を発送。税務署と都税事務所にも出さないといけないので、ようやく解散届を作成。こちらも発送。

■某月某日

官報の掲載について問い合わせがあって、内容についてツッコミが。あう。流石にそういう仕事を主に行っているだけあって、会社法とか詳しいなぁ。いきなり電話口で会社法第○○条でどうこう言われてもわからんがなー。ともあれ、少々対応することに。

■某月某日

官報掲載の請求書が来ていたので振込み。3万円なり~。

■某月某日

そういえば小規模企業共済から郵便が来ていたんだが簡易書留だから投函されてないという。簡易書留なんかで送るなよぉ。再配達依頼をしたけど、配達されるのをじっと待っているのも面倒なんだよなぁ。いっそ郵便局まで取りに行こうかと思うけど、それも罠にはまっているようだし。

■某月某日

官報が届く。おお、そういえばそんなもんがあったのを忘れてた。官報に公告すると掲載号がもらえるんだよね。官報の実物見たの初めてだよ。確認したらしっかりとうちの会社が載っている。当たり前なんだけど。

■某月某日

小規模企業共済からの簡易書留受け取り。提出された登記簿謄本は現在事項しか載ってなくて全部事項でないとダメって連絡。やっぱそうか。そんな気はしたんだけど。にしても、その程度の連絡をわざわざ簡易書留にしなくても。めんどくさいなぁ。謄本はネットで取れるけど、休日夜間はネット受付してないというダメ仕様だからなぁ。

■某月某日

登記簿謄本のネット申請もする。あーでもこれって申請しても承認してもらわないと支払い出来ないという謎システムなんだった。なんでそんな仕組みになってるんかね。なんかの法律にそういう制限が書いてあるんだろうか。ともかく利用者としては不便だぞ。いや、ネットで請求できるようになっているのはそれだけで凄く便利にはなったんだけど。人間の欲望というものには限りがないのですよ。

■某月某日

登記簿謄本が無事到着。よかった。ということで小規模企業共済に発送。ToDo一つ完了。

■某月某日

小規模企業共済から振込みのお知らせ。口座をチェックしたら既に振り込まれていたよ。おお、お金持ちになってしまった。あーでもこれって確定申告しなきゃいかんのだよな。多分退職金控除で無税にはなるとは思うけど。

■某月某日

解散決算作業。前期の書類を参考にして書類を埋めていく。なんとか書類が完成。窓口は開いていないので郵送で申告することにして投函。なんとかToDoが一つ完了した。まだ清算結了の決算申告があるんだけど。

■某月某日

今更ながら、取引先に解散のお知らせを作成して送付。

■某月某日

清算作業。とりあえず現時点で記帳できる取引を会計ソフトに入力。早く終わらせたいんだけど、還付金が出るからそれを待たないとなぁ。あと清算に関する書類をいくつか作るけど、設立と違って清算を自力でやろうという人は少ないようで、ぐぐってもなかなか該当する事例が見つからない。結局、こんな感じかなという作り方になってしまう。まあ、それで役所に怒られたらそのときにやりなおそう。

■某月某日

税務署から還付金のお知らせ。やっと届いたか。ただ、振込先の口座は既に無いから、どう対応したらいいんかね。ということで税務署に問い合わせたところ郵便為替で受け取る方法があるそうで、その案内の郵便が届くので届いたら手続きしてとのこと。なるほど。また待ちだけど、前進はしたぞ。

■某月某日

還付金の郵便為替がやってきた。これを郵便局に持っていけばー。やったー。ということで還付金を貰いに郵便局へ。が、郵便局側の書類がまだ届いてないので支払えないそうな。がーん。早く来すぎたか。

■某月某日

清算についてもうちょっと調べていると、清算期間中も住民税の均等割りは発生するらしい。えーそうなん。ならとっとと清算完了させな損やん。でもまだできんのやけど。

あと、債務超過のままでは清算結了できないらしい。どうするかというと破産に移行すると。おお、そりゃそうか。そういうもんか。流石に破産手続きは試しにやってみるかというほど楽な話ではないよなぁ。負債は自分に対する未払い給与だから、債権放棄してしまうのが手っ取り早いかなぁ。ふーむ。

■某月某日

書類が郵便局に届いたそうなので、還付金を受け取りに行く。たった1円だけど、やっぱり手続きとしてやっておかないといけないことなわけで。ともあれ一つToDoが終わった。

■某月某日

清算作業について更に調べていくうちに結構詰んだ状態になっていることが発覚。債務超過の状態では清算結了できなくて破産手続きが必要ということで、債務免除を検討していた。しかし、債務免除をうけるとその分は雑収入になってしまうそうな。へへん、それくらい繰越損金で相殺できるもーんと思っていたら、7年の繰越期限を過ぎていて相殺しきれないよ。ということは法人税が発生するわけだけど、そんな納税資金はないよ。ということは納税資金不足でやっぱり破産手続き?えーん、そんなぁ。なんとか方法はないんかな。

ということで、例によってgoogle先生に聞きまくるわけだけど、会社清算ですらほとんど情報が見つからないのに、こんなレアなケースについての解説なんて見つかるわけもない。

こりゃもう手に負えんので士業の方に依頼しようかなとも思ったけど、これって誰に相談すればいいんだ?税理士のような弁護士のような。どっちにしても報酬高そうだ。うえーん。今になってわかるのは、解散登記の前に債務免除を受けておけばよかったということだな。そんなん、先にわかるかー。

ぐぐっているうちに、総合法律事務所で無料メール相談を受け付けているところがあったので、とりあえずダメもとでそこに相談してみる。もし依頼することになっても弁護士も税理士もいるんだったらワンストップでなんとかなるだろう。報酬高そうだけど、この際贅沢は言ってられんような気もするし。ううう。それにしても、会社を清算するのって思った以上に大変やな。清算する会社なんて大抵が債務超過だろうと思うのに、みんなちゃんと真面目に破産手続きをしてるんだろうかしらん。どうなっているのか不思議だ。

■某月某日

いつまで経っても総合法律事務所から連絡がない。仕方が無いので、ぐぐって別の税理士事務所を探して適当なところに相談のメールをうってみる。今度こそ返事くれ。

■某月某日

問い合わせ入れた税理士事務所から連絡がないので電話してみる。が、留守番電話。やる気あるんか。って、税理士なんて顧問料で食っているわけだから、新規契約に対してやる気なんてもってないよなぁ。総合法律事務所からも未だに連絡ないし。どないせえっちゅうねん。どっかにフットワークの軽い税理士はおらんのか。

■某月某日

税理士事務所から回答のメールが。おお、と思ったけど回答の内容が役に立たん。それではダメだと思うんだけど、無料相談は1回のみということなので、ここはもう利用できんな。もしくは有料相談に切り替えるかか。うーん、どうしよう。

更に別の税理士事務所に問い合わせを入れてみる。これでダメなら、どうしよう。果てしなく税理士を探す旅に出ることになるのかなぁ。

■某月某日

昨日問い合わせを入れた税理士さんからはもちろん返事は無い。税理士ってなんでこんなにタカビーなヤツばっかりやねん。もうちょっと商売っ気出せやー。

改めて調べてみると税務署でも相談を受け付けているようなので、とりあえず電話してみる。いろいろ話してみたら聞いてはもらえるんだけど、流石に電話では詳しい話が出来ないので訪問して相談することに。なんだ、税務署で話を聞いてくれるんや。灯台下暗しってやつかね。それだけ私が抜けているってことかもしれんけど。

ということで税務署。先に社名を伝えておいていたので担当者の方が過去の決算書をチェックしてくださっていて、多分これ納税ゼロになりますよとのこと。へ、そんなことあるの。どんなマジック?

聞いてみると、法人を解散するときに限って累積損失を控除することができるそうな。ええー、なんじゃそりゃ。そんな方法が。ということで累損を控除して試算してみたところ法人税100円。これなら払えますがな。

ただ、担当者の方が一生懸命試算してくださったんだけど、何度計算しても合わないところがあるらしい。多分、過去の申告でどこかミスをしているのではないかとのこと。ええ、多分そうでしょう。私の申告がそんな正確なわけがない。どっかミスってます。すいません。多分少額だから見逃してもらえているんだろうと思います。

あと、どうせならということで清算に掛かる登記費用などの仕訳について質問してみる。現状は私個人が立て替えている。債務免除益が発生するなら費用計上して出来るだけ相殺したい。費用として計上できることは知っているんだけど、会社に現金が無いから記帳のしようがないことを話したら、私個人から会社に貸付けたことにすればいいとのこと。そしてその貸付も債務免除を受ければいいって。え、それって許されるの?清算期間中は営業活動は出来ないから借り入れも出来ないと思っていたんだけど、別に問題ないですよとのこと。えーそうなん。しらんかったー。つうか、それを知っていれば悩むことは何もなかったのに。やっぱ専門家に聞くのは大切やなぁ。って、専門家である税理士に相談しようとして努力したけど、どこも門前払いをくらってんけどな。でも、多分税理士に有償で相談してもここまでのアドバイスを受けられなかったんじゃないかな。なんで無料で相談に乗ってくれる税務署員の方が親切やねん。つうか、税務署員なのに法人税が少なくなる方法を教えたりしていいのかよ。納税額のノルマとかないんか!あるわけないか。それにしても親切すぎ。

会社をやっててつくづく思ったけど、役所の窓口の人って親切だよな。たまたま私がそういう担当者に恵まれたのかもしれんけど。税務署にしても法務局にしても社会保険事務所改め年金機構にしても。税務署なんて世間では社長の敵と言われているけど、それって脱税しようとしているから敵になるだけなんじゃないかね。私は敵と思ったことは一度もない。逆に士業の方に相談して辛辣な言葉を貰ったり喧嘩同然になったことは何度もある。私にとっては士業の方が敵だったような気がする。まあどうでもいいけど。

ともかく、これで清算できる。やったー。気分晴ればれー。

■某月某日

ようやく清算完了できるので会計ソフトに入力。そして清算結了登記の書類を作成。多分これで完成。あとは法務局に持っていくだけ。って、まだ決算申告と法人住民税納税があるけど。でもあと少しだ。

■某月某日

とりあえず今日中に法務局に登記申請に行かないといけないので行って来る。申請書の日付を今日で作ってしまったからな。窓口で提出しようと思ったら社印が無いからダメって言われてしまう。がーん。要るんか。印鑑持ってきておいたらよかったのに、持ってきてないよぉ。やっぱり役所に来るときは印鑑は必ず持ってこないとダメだよなぁ。

ということで印鑑を取りに帰ってもう一度法務局。今度は無事受領してもらう。補正の連絡がなければ登記完了。これで法務局との長きに渡った縁もお仕舞いだぁ。あ、あと印鑑登録カードも返却してきたり。

■某月某日

清算結了の決算申告書を作成していく。が、自分で計算してみたら納税が結構発生するんだけど。あれぁ?窓口の人が勘違いして計算したのか、私の解釈が間違っているのか。

■某月某日

補正の連絡がなかったので清算結了登記完了。やったー。ネットで登記簿謄本請求。もうどこにも出すことはないんだけど最後の記念に。

■某月某日

税務署に清算結了の決算申告書提出。そして法人税と法人住民税も納税。これで解散と清算に関する作業は全て完了したことになる。多分。決算申告の内容に問題があれば修正することになるけど、そのときはそのときだ。

ということで、あんまり大した話ではなかったけど、会社の潰し方でした。世の中、会社設立の手引きはたくさんあるんだから、それと同じくらい解散・清算の手引きも用意すべきだ。でないと私が不便じゃないかw。