消費税のインボイスは弱者いじめなのか

2021/10/24作成

消費税のインボイスがいよいよ導入されるにあたり、これが弱者いじめの制度だという意見があるそうです。え!とびっくりしたので、自分なりの考えというか知識を整理しておこうと思います。

前提としてですが、私の消費税に関する知識は野口悠紀雄さんの「「超」納税法」で読んだ知識がメインです。元大蔵官僚の野口さんの本なので、基本的に消費税に対してもポジティブですので私もそれに影響されてポジティブです。

これは完全に「「超」納税法」からの受け売りなんですが、消費税って正確に申告するほど節税になるという、これまでの税制の常識をひっくり返す発明なんですね。これまでの税制では虚偽の申告をするほど税金をごまかせるので、納税者には申告をごまかすインセンティブがありました。しかし消費税については正確に申告するインセンティブがあるのです。これはほんとに大発明ですよね。

ただ、そんな大発明の消費税ですが、大発明を支えているのはインボイスなんです。インボイスがあるからこそ消費税の申告が正確であることが検証できる。インボイスが無ければ消費税においても虚偽申告による脱税が可能になってしまうんですね。ある意味、インボイスの無い消費税は制度として欠陥があるわけですが、導入から約30年ずっと欠陥状態で運用されてきたわけです。それがようやく本来の姿になるわけです。それがインボイス導入。

インボイスはこれまで不要だった伝票ですから、これを発行するのは各事業者にとって手間が増えます。専門の経理部門を抱える大企業ならともかく、経理を片手間でこなしている零細企業や個人事業主にとっては大打撃だからこれは弱者いじめだということですね。本当にそうでしょうか。

増える手間で言えば、取引の数も規模も段違いの大企業にとってこそ手間です。専門の経理部門があるからといって、その人たちは無限のマンパワーを持っているわけではありません。仕事が増えるなら当然に増員するなりのコストが掛かりますから、事情は大企業も個人事業主も同じです。どっちも手間が増えていることには変わりませんし、手間を増やすことをいじめというのなら、大企業も個人事業主も国税庁から等しくいじめられるでしょう。

ただ、疑問なのはインボイスを作るのってそんなに手間ですかってことです。今時まともに事業を営んでいて手で帳簿を付けている人は少数派です。会計ソフトを使うのが当たり前の時代になりました。会計ソフトもネットサービスが普及してきて、単なる記帳だけではなく請求書発行などの機能も実装されています。おそらくインボイス発行機能も追加されるでしょう。であれば、会計ソフトへの入力さえちゃんとすればインボイスは会計ソフトが自動的にやってくれるでしょう。これまでだって、会計ソフトへの入力をちゃんとやっていれば貸借対照表や損益計算書などの決算書類は自動的に作成出来たのです。決算書類の作成を弱者いじめとは言わないでしょう。であればインボイスも同じことです。会計ソフトへの入力が手間であったりとか、会計の知識が無いから入力も出来ないと言うのなら、会計を外部に委託すればいいのです。税理士さんとか会計事務所さんが請け負ってくれますよね。

会計ソフトを使うのにも外部に委託するのにもお金が掛かるじゃないかというかもしれませんが、そりゃ当たり前です。そもそも事業を営んでいるわけですよね。事業に伴って必要な費用は支払ってください。それを支払えないなら、そもそも事業を営んでいるとは言えません。お金が無いから商品を仕入れるときにタダにしてくださいって言いますか?文房具屋でボールペンをタダでくださいって言いますか?言いませんよね。ちゃんと事業に必要な経費は支払ってください。そして税務処理も事業に伴って必要な処理です。その国で事業を営んでいるわけですからね。ショバ代と言ってしまうと身もふたもありませんが、社会の構成員としての役目をそれぞれが果たさないと社会が回っていかないわけですよね。

インボイス導入によってフリーランスが絶滅するとか、自由な働き方を進める社会に逆行するとか言われていますが、個人的にはそんなことはないと思っています。私自身もフリーランスでしたから言えますが、生計を立てるレベルで働いているなら、それに伴う手間も負担します。非現実的な手間であるなら問題ですが、インボイスの発行がそこまでの手間だとは思えません。

ただ、別で考えなければならない例外はあります。それは生計を立てないレベルの事業者。副業としてお小遣い程度を稼いでいた人たちです。年商数万円から数十万円程度の事業規模だと会計ソフトであったり税理士に依頼したりするのは難しいです。そもそも20万円以下で確定申告をしていない人も多いでしょう。そういった人たちにとっては記帳自体が何それ状態ですから、インボイスを発行することも難しいです。インボイスが発行できないとしたら発注側の企業としては消費税分を自己負担しなければならないため、発注しにくくなってしまいます。よほど換えの効かない人でない限り、インボイスを発行してくれる事業者に切り替えようということになって、副業が下火になる可能性はあるでしょう。インボイスはフリーランスいじめではないですが、副業事業者いじめではあるかもしれませんね。

副業については、おそらく中間事業者が登場するのではないかと予想します。副業事業者を束ねて企業との取引の間にたち、インボイス発行や請求業務などの仲立ちを行うわけですね。会計ソフトサービスを行ってる事業者がやる場合もあるでしょうし、副業紹介のエージェントが行う場合もあるでしょう。それぞれインボイス発行の手数料を取るでしょうが、会計ソフトを買うよりは安くつくラインに収まるんじゃないかと思います。

ということで、インボイスは弱者いじめでもないし、そもそも消費税の仕組みにおいて必須のものであるという認識です。なお、消費税自体にはそもそも直間比率であったり逆累進性であったり軽減税率であったり益税であったりと、様々な問題があるのは承知しています。でもそれは別の話であると思っています。

(2021/11/16追記)

余りにも下品な話なのでリンクは張りませんが、とあるインボイス反対の自営業者の方の意見を見ました。要するにこれまでポッケナイナイ出来ていた益税数十万が無くなるのでイヤなんだそうです。

気持ちはわからんでもないですが、それを政治的意見として政党まで動かして選挙の争点にしようなんてのは違うだろうと思います。そして票が欲しさにそんな政策に乗ってしまった政党も政党だなと思いました。