人工冬眠の夢

2012/3/1作成

食料なしで雪中2カ月、男性救出 スウェーデン、冬眠状態か

これ自体はよくある遭難の救出例で「助かってよかったね」という話でもあるんですが、個人的にちょっと注目しています。というのは、この事件は多分人工冬眠の研究に関係してくるからです。

関連する事件として、2006年に日本で

20日以上飲食せず冬眠状態 「驚異的生命力」と医師

ということがありました。全く飲食をしない場合、人間は確か3日程度で死んでしまうんだったと思うのですが、それが20日以上生存していたというのは常識が覆ります。その常識を覆した理由が冬眠状態であったのではないかということで、この事件をきっかけに人工冬眠に関する研究が活発化したそうです。人間には冬眠は無理だろうと多くの科学者が諦めかけていたところに、そうかもしれないという事例が出たということで研究に火が点いたということです。

今回のスウェーデンの事例は人間の冬眠かもしれない事例の二つ目になります。素人考えですが、二例目というのは科学的に意味が大きいと思います。もちろん一例目も大きいのですが、一例だけだといくら詳しく調べても、どの条件が冬眠に作用して、どの条件は関係なかったのかという切りわけが難しいです。しかし二例あると、二つの事例に共通する条件と共通しない条件に仕分けることで、冬眠に関係する条件を特定しやすくなるのではないかと思います。もちろん、三例目四例目と事例が増えれば増えるほど研究は進むと思います。

人間は一般に冬眠しませんが、では不可能かというとまだよくわかっていないというのが実情でしょう。熊のような大型哺乳類でも冬眠しますから、人間だって冬眠できて不思議はないように思います。

ところで、人工冬眠が出来ると何かいいことがあるのでしょうか。SFの世界ではコールドスリープというアイデアがよく登場し、何年も何十年も人工冬眠したまま過ごすことで、一種のタイムトラベルを実現させています。ただ、今話題になっている冬眠はコールドスリープとは直接的には結びつかないでしょう。なぜなら、冬眠はせいぜい数ヶ月の期間で行うものであって、何年も何十年も冬眠し続ける動物というのは知られていないからです。コールドスリープは人工冬眠とは別のブレイクスルーがないと実現できないでしょう。

ではたった数ヶ月の人工冬眠が出来て何か意味があるのか。恒星間航行のような超長時間には向きませんが、火星旅行くらいなら使えるかもしれません。それくらいの期間なら人工冬眠しなくてもとも思いますが、人工冬眠していれば食料などはその分搭載しなくて済みますし、また長時間の閉鎖空間での生活は人間に大きなストレスを与えますから、そういう観点からも航行中は人工冬眠しているというのは妥当な気がします。

それ以外には役に立つ方法はあるでしょうか。コールドスリープの場合、不治の病におかされた人が未来の医療技術の発達に期待してという理由が考えられますが、数ヶ月程度の人工冬眠ではそこまでの進歩は期待できないかもしれません。それでも余命わずかの夫に赤ちゃんを、米女性が予定よりも2週間早く出産。のようなケースでは使えるかもしれません。

そこまでドラマチックな話ではなくても、例えば重傷を負って今すぐ治療が必要だけれどもなんらかの理由で治療が行えない場合、とりあえず人工冬眠させておいて時間を稼ぐというような使い方は出来るかもしれません。

ともあれ、個人的に人工冬眠に興味がありますので、研究が進むことを祈っています。

(2019/2/15追記)

この記事を書いてから随分時間が経ってしまいましたが、最近「「人工冬眠」への挑戦」という書籍を読みました。 筆者は麻酔や循環器を専門とする医学博士の市瀬史という方。 つまり現役バリバリの人工冬眠の研究者の方の書籍というわけです。

ブルーバックスだけあって、専門書ではないもののそれなりに専門知識が語られますから、正直素人の私としては理解の追い付かないところも多々あったのですが、それでも大変面白く、また今後の人工冬眠の研究の発展に期待が持てる内容でした。

本書を読んで驚いたのは、実はすでに人工冬眠に近しい技術は存在すること。 それは心臓や大血管などの循環器の大規模な手術をする際。 そういう場合は人工心肺を使うのだと思っていたのですが、短時間であれば麻酔技術と低体温技術の組み合わせで人工冬眠というか仮死状態を作り出せるそうです。 そうだったのか。

また、冬眠する哺乳類の話も当然出てきます。私はうえで気軽にクマが冬眠するから人間もと書きましたが、とてもそんな簡単に言えることではないようです。 クマにしてもリスにしてもですが、冬眠するための生理機能を持っているんですね。 言われてみれば当然なんだけども。 つまり、クマやリスは冬眠のエキスパートなわけですな。 また、クマとリスの冬眠ではそのメカニズムに大きな違いがあるというのも非常に面白い。 なんとなく冬眠と言えばみんな同じと思っていましたが、いろんな冬眠があるのですね。

そうした冬眠の生理機能を持ち合わせていない人間が冬眠するためには、冬眠するための生理機能を薬などの方法で投与しなければならない。 しかし、本書では動物の冬眠とは違ったアプローチとして硫化水素を用いた人工冬眠の可能性についても論じられています。 それも非常に興味深いですね。

本書が執筆されたのは2009年。筆者は数年以内に限定的な人工冬眠が実用化され、10年から20年以内に冬眠のメカニズムが完全に解明されるだろうとしています。 錬金術師の昔から科学者の予想は非常に楽観的に語られることが多いですから、この予想通りになるとは限りません。 とはいえ、今は2019年。本書の執筆から10年が経過しました。 実際のところ人工冬眠の研究がどれくらい進んだのか。 その現在がどうなっているのか非常に気になります。


あおやぎのさいと2.0 トドの日記2.0