イチローも警鐘を鳴らした…「大人に叱ってもらえない」Z世代が直面する「やさしさという残酷」
イチローさん自身には多分もっと深い考えがあるんだろうとは思うのですが、とりあえず表層として現れた記事に書かれた部分についてだけ、自分なりに思うところをいくつか書き出してみようと思います。
まず一つ思うのは、今は過渡期なのかなということ。確かにコンプライアンスとかハラスメントとかが叫ばれるようになり、昭和のような厳しい指導は令和の時代には一発退場のレッドカードになるようになりました。昭和の体罰指導を続けていて大炎上した名門運動部もいくつもありましたよね。そういう時代ですから、指導側は及び腰になってしまっていて、言いたいことも言えない過剰に委縮した状態にあるのかなと思います。おそらくですが、今後これではさすがに必要な指導も出来ないという流れになって、コンプライアンスを守ったうえでどういう指導が適切であるかという模索が行われるようになるのではないかなと想像します。
これ、似たような話が子育て界隈にあって、以前から「褒める子育て」というのが提唱されているんですね。褒めて自己肯定感をアップさせて、さらに良い行動を促すような正のフィードバックループを形成しましょうって話なんですが、短絡的に「間違ったことをしても叱ってはいけないのか」と受け取ってしまう人が出てきた。でもそれは解釈が間違ってるんですよね。褒めることが良いという言葉のどこにも、叱ることが悪いとは書いてないんですよ。実際悪いことをしたら𠮟るべきなんですよね。また、叱ると怒るの違いという話もあります。一般的には間違った点を指摘して分からせることが叱るであって、ただ単に不満の感情をぶつけるだけの怒るとは違うんですよね。褒める一辺倒から始まって、必要な時には叱るけど怒ることはしないというあたりで、子育て界隈ではうまく落ち着いてきているかなというように思います。多分スポーツでの厳しい指導ってのも、今後揺り戻しを経て適切なところに落ち着くのではないかなと。
次に思うのは、そもそも「厳しい指導」という言葉が非常にふわっとしていて、人によって解釈が非常にばらけそうな気がします。多分ですがこの記事を読んで「イチローがいいって言ったから明日から鉄拳制裁を再開しよう」って過剰解釈する少年野球コーチは全国に100人くらいはいそうな気がします。イチローさんが言ってるのはそういうことではないですよね。
鉄拳制裁が論外なのは言うまでもないのですが、では厳しい指導とはいったい何だろうか。気絶するまで続けられる地獄の千本ノックとかは果たしてどうだろう。有名選手が「かつてあの地獄の特訓があったから今の俺がある」ってインタビューで答えてたりもしますから、効果がゼロではないでしょうけれども、果たして万人に効果があるのか。千本ノックで潰れてしまった選手は無名のまま引退していますから、インタビューに答えているのは単なる生存バイアスの可能性があると思います。
そもそも科学的トレーニングからすると、トレーニング効果が最も高いのは限度ギリギリから少し超える程度の負荷。それ以上に負荷をかけてもトレーニング効果はあるけれど、回復に時間がかかるからスケジュール全体としてのトレーニング効果の総量が少なくなってしまう。また、千本ノックのような極端な高負荷トレーニングは故障してしまう可能性もあるし、そのまま引退ということにもなりかねない。メリットに対してリスクが大きすぎるのではないかなと思うし、果たして本当に千本ノックでしか得られないトレーニング効果があるのかというのも疑問です。
あとイチローさんが言ってるのは、自律できていない子供に対してはある程度強制力のある指導が必要ということだとは思うんですが、そこに必要なのはアメなのかムチなのかですよね。昭和の鬼コーチはムチ一辺倒でしたけれども、果たしてアメによる動機付けは不可能なのか。個人的にはアメが基本でもいいと思うんですけどねぇ。