「イノベーションのジレンマ」読書メモ

2023/10/17作成

「イノベーションのジレンマ 増補改訂版(ISBN:978-4798100234)」を今更ながらに読みましたので、その読書メモ。ほんとはきちんと整理して書いた方がいいんだろうけれど、それも大変なのでメモそのまま。文体もおかしいけど気にしない。読みながらメモ取ってるので、先の章で説明されてることを疑問点として書いてるところもあるけど気にしない。

なお、結構難解で読み飛ばしたところも多いので、多分読み取れてない内容もたくさんあると思います。


本書によると段階的イノベーションと破壊的イノベーションがあると。大企業では段階的イノベーションで製品を改良するのは得意だけど、破壊的イノベーションには対応できない。なぜなら破壊的イノベーションは従来のバリューネットワークの外にあるので、既存顧客を見捨てなければ対応出来ないから。

まあそれは分かるんだけど、疑問なのはどれが真の破壊的イノベーションであるかって事前に分かるのかなと。この本ではわりとそれは自明であるってスタンスのような気がするけど、それは未来人視点で見てるからだよね。その時点での人にとっては不明なこと。多分実際にはいろんな可能性を求めて無数のベンチャー企業が挑戦を行ってたんじゃないかな。その中のごく少数がたまたま当たりを引いて破壊的イノベーションを起こすことに成功すると。これに既存の大企業が対応しようとすると、全ての可能性に対して新規事業を起こさないといけないことになる。実際にはそんな途方もない余力のある会社なんてあり得ないわけで。なので既存の大企業が時代の変化によって滅びるのは必然なのではないだろうか。

そりゃ中には変身を遂げて新しい時代も生き残る大企業もあるだろうけれど、それはたまたま手を出した新規事業が当たりの破壊的イノベーションだったって幸運な例ではないだろうかね。多分唯一の例外はアップルで、アップルの場合は未来予言者とでも言うべきスティーブ・ジョブズという天才が居たから自ら未来を作り出すことが出来たってことではないかな。そしてジョブズはもう居ないので、アップルももう新しいイノベーションを起こすことは出来ないと。今のところそんな感じの理解をしてるかな。読み進めたらまた考え変わるかもしれんけど。あとの方にアップルのニュートンが失敗例として出てくるけど、それはスカリー時代の話なのでジョブズとしてはノーカンでいいか。まあ、ニュートンも十分に革新的なんだけどね。

企業が常により上位の利益率の高い市場に遷移し続けるというのはそうかもしれないね。そして破壊的イノベーションは下位市場から起こるので、既存企業はそこに参入できない。たまたま「なぜラノベは衰退したのか」みたいな記事をネットで見かけたけど、そういうジャンルの衰退話にも似てるのかもしれない。確実に利益が上げられる既存顧客の方を向いてしまうので、ライト層の受け入れが出来なくなって先細ってしまうとか。

ということであれば、破壊的イノベーションが起こったらそれは世代交代ってことで旧来の企業群は滅びて新しい企業群に入れ替わるってことでいいんじゃないかな。無理して古い企業群を生き残らせる必要もないような。経営学的にはそれは言ってはいけない結論かもしれないけど。この理屈で言えば、老舗の和菓子屋さんとかは市場が変化しないからずっと存続できるってことで、それも理解できるんだけどね。

そして企業のコントロールが経営陣によってではなく顧客の要望によって行われるというのも面白い指摘だね。考えたことがなかったけど、もっともかもしれない。破壊的イノベーションが起こっていることに気が付いて市場を移行しようにも、既存顧客はそこにはいないので顧客の言うとおりに経営してたら破壊的イノベーションに移行できないと。大企業も新規事業の開拓もしてるけど、大抵は失敗に終わる。たまに成功して売上10億程度の規模まで育ったりするんだけど「わが社でそんな小規模なビジネスをやる意味はない」といって潰されるそうだしね。これだけ取り出したらアホかとは思うけど、真面目に既存顧客の方を向いて経営判断を下してたらそれは正しい判断に見えるだろうねぇ。もっともマーケティングでよく言われれるけど、顧客が自身の本当に欲しいものを理解してるとは限らないんだけどね。だから顧客の言うことだけを聞いてればいいわけでもないし、顧客が本当に正しいなら破壊的イノベーションの市場もそもそも顧客がすでに注目してるはずでもあるし。なので処方箋としては既存の組織とは完全に切り離した別組織として立ち上げてそこに完全に任せきってしまうというのがいいらしい。これ言い換えれば、育ってきた破壊的イノベーション企業を買収すればいいってことだよね。マイクロソフトとかがベンチャーを買収しまくりって批判されてるけど、そう考えると正しい経営判断なのかもしれない。巨人が育成せずにFA選手ばかり集めるって批判されるけど、これも考え方によっては正しいのかもね。

ところでこの本の主張が正しいとすると、よくいうベンチャーのリスクは存在しないことになるね。ベンチャーが必死になって新しい市場を開拓したところ、大企業が大資本を使って一気にシェアを取りに来て負けてしまうという話。まことしやかに話されるけど、この本が正しければそんなことは起きないことになる。もしくは、もしも大企業が参入してきても、新市場での経験を積んだことに寄って十分に戦えることになってる。それほんとかなって気はするけど。

大企業は破壊的イノベーションの作る新市場に後から参入するのに資源は豊富な点は有利だけど、組織内のプロセスや価値基準が旧来市場基準になっているので結局新市場では戦えないというのはなるほどね。なので処方箋としては小さな独立組織を切り出して新市場に充てると。これは納得かな。

顧客の需要は基準があり、それを超えたらいくら性能をあげても製品選択の指標にはならないというのも、言われてみればなるほど。最初は機能が要件になるけど、製品の機能向上が顧客の需要を完全に満たしたらそれ以上に機能向上は選択指標にはならない。機能が満たされたら信頼性、信頼性が需要を満たしたら利便性、利便性が需要を満たしたら価格が選択指標になる。だから持続的イノベーションで製品を改良し続けても、顧客の需要を満たしてしまったら以降の性能向上は選択理由にならない。そして破壊的イノベーションの新市場からの製品が顧客の需要ゾーンを満たすようになると負けてしまう。ふーむ。

これ読んでて思ったけど、製品市場に限った話ではないんじゃないかな。例えばシステム開発でも当てはまる要素はありそう。最初は小さくシンプルに作られたシステムも機能向上を続けてどんどん巨大化複雑化していく。それに伴い改修のコストも膨大になっていき、いずれ動きがとれなくなっていく。そして新しい破壊的イノベーションのシステムにとってかわられるってのもよくある話だよね。対策としてアーキテクチャ的な話がいろいろあるけれども、それはもしかしたら対処療法でしかなくて、根本要因はイノベーションのジレンマにあるのかもしれない。

ところでネットではよくイノベーションのジレンマについて既存事業とのカニバリズムを理由に説明されていることが多い気がするけど、この本にはそんなことは書いてなかった気がするな。見落としてるのかもしれないけど。あの言説はどこから来たんだろう。

(2023/10/18追記)

この本自体はすでに成長した大企業の視点で書かれてます。大企業が破壊的イノベーションに対してどう立ち向かうかですね。でもこれ、破壊的イノベーションを起こす側に視点を変えて読み解くことも出来るんじゃないかな。

要するにですね、これから起業するベンチャー側の視点です。ベンチャーを起業するとき、ブルーオーシャンとレッドオーシャンの話がよくされます。入り込む市場が成熟して競争相手がたくさんいるかどうかで判断すると。ベンチャーは既に大企業が支配しているレッドオーシャンをさけてブルーオーシャンを目指せと。でも、イノベーションのジレンマの見方を付け加えると、実はレッドオーシャンに見えていたものがブルーオーシャンに変わるかもしれない。

既存の大企業は市場を支配していたとしても、常に上位の市場に移り続けます。上位の市場に移ってしまえば、既存の市場は空きが出来るのでレッドオーシャンではなくなるのですね。ただほっといても空きは出来ないのですが、下位の市場から攻撃すれば割と簡単に大企業を追い落とすことが出来るというのがこの本に書かれていることかなと。もっとも本書が公開されたことで大企業側も対策を取りえるようになったので、以前よりは簡単にいかないかもしれませんが。

ともあれ「そこはレッドオーシャンだからやめておけ」と思考停止的なアドバイスがなされていましたが、下位市場で破壊的イノベーションを起こすという方法はあるのかなと思いました。