音楽のサブスクが儲からない話

2022/10/2作成

川本真琴「利益がどれだけ少ないか」、一方で「累計収益2000万円」のシンガーも “サブスク”でなぜ収益に差? 現場の実情

音楽のサブスクで音楽家の収益が凄く少ないという話に対して、儲かってるって人も出てきたのはいいんですが、その金額を読んでビックリしました。累計2000万円って。年間じゃなくて累計なんですよね。それが何年かかってなのかわかりませんが、例えば3年だとしたら年間666万円ですよね。この方は一人でやってるみたいですが、バンドだったらバンドメンバーで折半ですよね。更にスタッフが何人も関わっていたとしたら、その取り分もありますよね。そもそも全部一人でやっていたとしても、この金額は食べていくには厳しい金額です。副業でやってますとか、アマチュアなんですって人にとっては夢のある金額ですが、プロとしてやっていける金額じゃないですよね。

それともう一つ驚いたのは、いい音楽を作れば自然と売れますってピュアに信じてること。すいませんが、それについてはとっくに結論が出てるんです。そもそも趣味性のある音楽をいい悪いって区別することが出来るかって話もありますが、とりあえずより多くの人に好んでもらえる音楽をいい音楽と仮定するとして。いい音楽だから売れるってことはありません。悪い音楽よりは売れる確率は高いでしょうけれど、必ず売れるというわけではありません。というか、いい音楽も悪い音楽も、どちらもほとんどが売れません。

例えばスマホが登場した時、アプリを作って当たれば大儲けと信じて、多数のエンジニアが仕事を辞めてアプリ開発に専念しました。それでヒットを飛ばした人もいますが、ほとんどの人は数か月かけて作り込んだアプリが数十ダウンロードしかされず、この道から去っています。それが現実です。

そもそもサブスク以前からして、売れるかどうかはいいか悪いかではなく、運とプロモーションにかかってたわけです。サブスクになったからいきなり平等なチャンスが転がってきたと信じるのは、ネット業界では20年くらい前に通過した話です。音楽は違うんだって信じるのはご自由ですし、音楽は違うかもしれませんけれども、まあ間違いなく同じ道を辿ると思いますけどね。

(2022/10/18追記)

「あなたがヒット曲を作ればいい」 松浦勝人、川本真琴のサブスク巡る発言に意見 “地獄に堕ちてほしい”には「時代遅れもはなはだしい」

自分でヒット曲を作ればいいじゃないという意見は一見正論に見えますが、ただの自己責任論ですよね。貧困層に対して、稼げる仕事に就く努力をしなかったからだと言ってるネット民と変わりません。川本さんは音楽業界全体の仕組みの話をしているのに、個人の努力に話を挿げ替えているのも詭弁ですよね。

そもそもで言うと、サブスクでアーティスト側が儲からなくなったってのがあるんですが、これにはいくつか論点があって。一つはサブスクだと競争相手が古今東西の楽曲全てになってしまうこと。CDの場合はCDショップの新譜売り場の中で競えばよかったんですが、サブスクだと競争相手が圧倒的に増えてしまうんですよね。なので、個々のアーティストにとっては埋没しやすくなっているんじゃないかと思います。この構造はサブスクが生んだものというよりも、手持ちのライブラリを全て入れることが出来るiPodがもたらしたものでしょうから、本当に恨むべき相手はスティーブ・ジョブズかもしれません。

もう一つは、アーティストが儲からなくなっているのは配信業者側の取り分が多いからなのかって疑問です。CD時代だって、アーティストの取り分ってそんなに多くなかったと思うんですよ。物理媒体の製造や流通の原価もかかりますしね。多分CD販売価格の1割くらいだったんじゃないですかね。でもCDは枚数がたくさん売れたから、アーティストも儲かった。CD時代の大物アーティストは大抵年収何億もあって豪邸建ててたりしますからね。

一方サブスク時代はトップの収益を上げてる人ですら累計2000万円。年間だと数百万円。100分の一以下に減ってますから、そりゃアーティスト側も怒るのも当たり前。でもそれがシステム側が搾取してるからかって言うとどうなんだろう。搾取してる部分もあるだろうけれど、そもそも音楽業界に流れるお金が減ってるってのもあるんじゃないですかね。

CD時代、音楽ファンなら月に何枚もCDを買っていました。一人当たりの月間消費額が1万円以上だったわけですね。でもサブスクだと月間千円程度が標準です。一人で複数のサブスクを契約してる人もいるでしょうけれど、多数派とは思えない。ということは、単純に一人当たりの消費額で言っても10分の一とかに減ってるわけですよね。とすると、アーティストの取り分が減ってしまうのも仕方が無いのかもしれない。そもそもパイ自体が小さくなってるわけだから。

例によって特に数字の裏付けもとることなく想像だけで書き散らしました。いくつかの数字は統計数値が公表されていると思いますので、気が向いたら調べてみたいと思います。

(2022/11/20追記)

ということで、音楽市場の数字を少し調べてみました。

一次情報としては日本レコード協会というところのようなんですが、こちらの生産実績・音楽配信売上実績 過去10年間 合計はタイトルの通り過去10年分の統計しか載っていない。それ以前のものは有償の白書を買ってねってことなのかな。出来ればJ-POP全盛の1990年代からの推移がみたいんだけどな。

とりあえず過去10年でみると、音楽市場全体が2012年の3700億円規模から2021年の2800億円規模に減ってます。20%以上の減少率ですから結構減ってますね。でも数分の一とか数十分の一まで減ってるというほどではない。

先ほどのグラフの音楽配信はダウンロード販売も含んでいます。音楽配信売上実績 過去10年間 全体でストリーミングの推移が見れますね。2012年の10億円から2021年には740億円へとかなり増えてます。思ったよりも市場規模が大きい。もっと何十分の一くらいしかないのかと思ってたんだけど、音楽市場全体でも数分の一くらいのボリュームを占めるまでになってる。

こっから雑に整理すると、まず音楽市場自体は現時点ではそこまで衰退していない。この先10年20年は分からないですけどね。出版業界もまだ大丈夫と言いながらずるずると衰退するに任せてしまいましたから、音楽業界は是非とも同じ轍は踏まないでもらえるといいなと思いますけれど、少なくとも2021年時点ではまだ十分な規模を誇ってる。

海外はまた事情が違うそうですが、日本ではパッケージ市場がまだまだ大きいです。パッケージが年々減って配信が伸びてますから、近いうちに逆転するだろうとは思いますけどね。ともあれ現時点ではパッケージが十分な市場がありますから、パッケージが売れるアーティストにとっては配信に参入する意味はなさそうです。

大物アーティストがなかなかサブスクに参入しなくて、その理由として音質がとか曲順がとか理由をあげてらっしゃいます。それが嘘だとは言いませんが、まあぶっちゃけお金ですよね。アーティスト本人はお金目的でなくても、プロミュージシャンというのはレコード会社などを含めたチームで動いてるわけで、それらのチームにとって利益を最大化するのは大きな目的の一つ。2022年時点でまだサブスクに参入しない方が得だと判断するに足る状況なので、そりゃ参入しませんよねって話ですね。おそらく今後数年でパッケージが減少してサブスクが伸びることで、大物アーティストのサブスク参入は増えるのではないかと予想します。

一方サブスク側です。個人的な予想として金額規模がもっと小さいと思っていたんですが、既にかなり大きいです。これだけの市場規模でありながらアーティストへの還元額がパッケージの100分の一ということであれば、サブスク事業者がぼったくっているという批判にも一定の意味はありそうです。実際にはどこにお金が流れていっているかわかりませんから、一方的に非難するわけにはいきませんが、少なくともアーティスト側はもっとよこせと言ってもいいように思います。

ところでこの統計ではカラオケ使用料ってどこに含まれるんでしょうかね。今はほとんどが通信カラオケですから配信に入ってきそうですけれども、そうは書いてないんですよね。JASRACの管轄で、日本レコード協会は関知してないってことでしょうか。