正義マンの正体

2022/8/31作成

「忍者武芸帳」にこんなエピソードがありました。

とある飢饉に襲われた村。食料はもちろん、農耕用の牛や馬、草や木の根なども全て食べつくし、食べられるものは人肉しか残っていないという状態。さすがに人肉を食べるのははばかられるため、誰もがギリギリの自制心をきかせているところで、こっそり村人を殺して食べるものが現れた。しかし、そこにたまたま村娘が通りかかったため、犯人は逃げ出してしまう。残されたのは村娘と、殺され焼かれ食べかけの人肉。そこに更に別の村人が通りかかり、村娘が人肉を食べたと誤解して村娘を殺してしまう。もしかしたら村娘が犯人ではなかったのかもしれないと思いつつも、今更取り返しがつかないし、村娘の家族が黙っていないだろうということで、村娘の家族も全員殺してしまう。

そこまで追い詰められてしまう飢饉の恐ろしさもあるのですが、怖いのは村人の行動が正義に基づいて行われていることなんですね。で、多分ですが世間で大活躍している正義マンの正体って、この村人なんじゃないかと思うんですよ。煽り運転の犯人も、モンスタークレーマーも、ネットで誹謗中傷をわめている人も。

当人は自分の行動が正義だと思っている。実際には正義でもなんでもない、殺人などの犯罪なんですが。でも当人の中ではそれが正義になっている。

正義だと思い込もうとしているというという面もあると思います。忍者武芸帳のエピソードにあるように、人肉食という禁忌を犯してしまいかねない誘惑と戦うために、禁忌を犯してしまった人に対して厳しくなる。自分が暗黒面に落ちるかもしれないという危険を感じているからこその反発反応と。

そしてやっぱり正義の御旗をもつと、楽であり、楽しいってのもあるでしょう。自分が正義だと思えていれば、自分の行動は一切の制約を外れて何をしても自由になります。なんでもやりたい放題。そして自分が正義だと思えていれば、それが幸福感をもたらしてくれる。

まあ、そんな感じが正義マンの行動原理かなぁと思うんですよ。正義であることはいいんですが、問題は自分が正義であるかどうかの問いかけが一切ないことなんですよね。我正義だと思う、ゆえに我は正義であるというトートロジーから一切出てこない。なので実際には自分が悪であるということに気づけない。いや、実際には気づいているかもしれないけど、今更後戻りが出来ないから気づかないふりをしている。まあ、そんな感じかなと。

こうして解き明かしているのは、だからって正義マンを認めろって話では無くてですね。正義マンが生れるロジックを解き明かして、それを防ぐにはどうしたらいいかを考えたいんですね。また、正義マンは自分が正義だと思い込んでいますから、正論による説得は効きません。そういう状態に対して、どうするのが有効であるかも考えたいです。