FAXのいいところ悪いところとDX

2022/7/25作成

生産性を下げる代表として常に叩かれる対象になってるFAXについてちょっと考えてみたいと思います。

まずFAXにもメリットはいくつもあるとは思うんですよ。一つは、紙という物理的なものがそこに存在すること。そして、FAXはみんなのものであって、みんなが同時に見れること。これ、特に小さなオフィスでは結構重要なことだと思うんですね。

FAXを廃止して全てメールでやり取りするようになると、メールをチェックするためにはPCに向かわないといけません。PCを立ち上げてなければメールが来ていても気づけません。また、メールは基本的に個人単位にアドレスが割り振られますから、担当者がメールチェックしないといけないという問題もあります。全スタッフに同時送信されるように設定しておくなどの対処法もありますけどね。

このメールによる方法って、担当者が常にPCに向かっていられるオフィスなら問題ないんですが、スタッフがばたばたと動き回っているオフィスでは無理なんですね。落ち着きがないってわけではなくて、学校や保育所、介護事業所など。商店や飲食店などなど。物理的なモノや人を扱っているところですと、ずっとPCに向かってられないんですね。モノや人に向かってないといけない。ばたばたが落ち着いたときにようやくメールがチェックされて、生徒の今日の欠席をようやく知ったりするわけです。これでは仕事にならないですよね。その点FAXだと物理的な紙がその場に出現しますし、担当者以外にも見えますから、誰かが内容をチェックして担当者に伝えるなどの対応が出来るわけです。やっぱり物理的なモノがあるってのは強いんですよね。

メールはダメだからLINEにしてスマホでチェックできるようにしようと言っても、スマホのメッセージもやっぱり物理的なモノではないから厳しいわけですよね。デジタルでこれを解決しようと思ったら、でっかいモニタをオフィスに置いて、そこに常にメールやLINEメッセージが表示されるようにするしかない。これ、最近の大手チェーンでは実際に取り入れられてますよね。マクドナルドなどでは、レジで注文した内容がモニタに表示されて、調理スタッフはそれを見ながら作ってる。これは一つの理想形だとは思うんですが、ハードもソフトも初期投資が非常に大きい。大手チェーンなら導入可能ですが、小さな事業所だとなかなか厳しい。長い目で見れば、モニターに表示する方向に進むとは思いますけれどね。それが実現されるまでには、まだ何段階かのステップが必要だろうと思います。

じゃあFAXを使い続ければいいのかというと、そんなことは無いです。FAXはやっぱり不便です。解像度低いから文字は潰れて読めないですし、物理的な紙は邪魔ですし。PCで文書を作ってプリンタで印刷してFAXで送信して、受信した側は自社のシステムにFAXの内容を入力するって、どう考えても無駄ですよね。でも、その無駄を解消するのはそう簡単なことではない。

もう一つ、規模の非対称性の問題もあります。コロナ禍で保健所が各診療所からの報告をFAXで受けているのが批判されました。多分保健所としては報告システムを電子化したいんだと思うんですよ。保健所は先ほどの例でいうと大手チェーンに相当しますから、デジタル化の投資負担にも耐えられますし、デジタル化のメリットも十分に享受できます。

ただ、保健所にFAXを送信する診療所はたくさんあるんですよね。大病院もあるでしょうから、そこはデジタル化も進んでいるでしょう。でも中小の診療所もあるし、なかには高齢の院長一人でやってるところもある。そういう診療所にとっては、あと何年続けられるかわからないなかでデジタル化の投資は出来ないという判断も、個別最適という意味では十分合理的だと思います。しかし結果として保健所はFAXを廃止できなくて全体最適に出来ない。

多分ですが、世の中のDXを阻む要因には、こうした規模の非対称性ってのも大きいんじゃないかと思うんです。あまたある取引先の最後の一か所のデジタル化が完了するまでは、FAXなどのアナログ手段を捨て去ることができない。そういうジレンマに苦しんでいる現場は日本中にたくさんあるんじゃないかなと思います。