名誉棄損のよくある誤解

2022/4/26作成

パワハラされてリストラされたので、転職サイトに書き込んでやりました

パワハラを受けて退職に追い込まれたのでブログや口コミサイトに経緯を書き込んだところ、会社から名誉棄損で訴えられたという裁判に対して、言論の自由があるんだから何書いたっていいじゃないかと憤ってらっしゃる記事です。ある意味、よくある誤解かなと思うので自分のための整理としてちょっとまとめておきます。

まず言論の自由が大事というのは筆者に同意します。私もとても大事なものだと思っています。ただ、言論に限らない権利全てに言えることですが、行使する権利があるということは、行為に伴って発生する責任から逃れられる免罪符ではないということなんですよね。言論の自由は、他者(主に国家権力)から言論を封殺されることがないということであって、発した言論によって発生した事象の責任は発言者にあるわけです。そこで国家が勝手に責任をかぶってくれたりはしない。だから「言論の自由があるから無罪だ」なんて主張は通らないのです。

もう一つ名誉棄損について。文字通り名誉を傷つけることですが、これは事実であっても成り立ちます。名誉、つまり「あの人は立派な人だ」と思われているけれど、実はこんな一面もあるのですよということが暴露されて立派な人という印象が覆ってしまったら、それは名誉棄損です。こんな一面というのが事実であっても。事実でなければ名誉棄損に留まらず、誹謗中傷になってしまいます。ですので「事実であれば何を書いたっていいじゃないか」って主張も通らないわけです。

では名誉棄損になるようなことは事実でも一切発言してはいけないのかというとそんなことはありません。そもそも責任をとるのなら言論の自由によって発言は自由ですしね。今回の裁判でも賠償金の支払いは命じられていますが、発言の削除や取り下げまでは求められていないはずです。

名誉棄損罪の適用除外事項は公益に資すること。要するにその発言によって他者の名誉を棄損してるけど、社会のためになっているのなら罪には問わないということになっています。この場合、例えば転職サイトに口コミとしてのみ書き込んでおいたのなら、転職希望者がパワハラするような会社に入社することを防ぐという公益になりますので、損害賠償も棄却された可能性があったと思います。判決として損害賠償を命じたということは、おそらくは公益の範囲を超えた、私怨を晴らすための言説が多かったのではないかなと想像します。