カラオケ概史

2022/2/10作成

カラオケの概略史を書いてみます。といってもこれが正しい歴史ってわけではないです。これまでに自分が聞きかじったことと、自分が実際に見聞きしたことと、自分で勝手に想像したところを寄せ集めただけで、実際には間違いも盛大にあるかと思います。ひとまず自分の覚え書きとしてまとめておいて、少しずつ裏どりを進めていけたらなと思います。


カラオケの語源は空っぽのオーケストラ。その昔、音楽は生演奏しかなかった。テレビ番組とかでもそう。今でも「NHKのど自慢」は伴奏を生演奏でやっていますが、昔は全てのテレビ番組がそうだったんですよね。私はその時代のテレビを知らないんですけれども。そんな生演奏が当然の時代でしたが、バンドが揃わなかったりする場合に今日はテープで代用しようということがあり、空っぽのオーケストラだからカラオケでと呼称していたそうです。これがカラオケの起源の一つ。

ただ、今のカラオケというものがテレビ業界のカラオケを直接の起源としているわけではないと思います。直接の起源は多分酒場の流し。これまた私は実物を見たことはないのですが、昔の酒場ではギターを抱えた流しの歌手がやってきて、数曲歌っては次の店に行くということをしていたそうです。歌手の歌を聞くこともあったでしょうし、お客さんが一緒に歌うこともあったでしょうし、時にはお客さんのリクエストに応えてギターで伴奏だけして歌うのはお客さんということもあったでしょう。最後のスタイルはまさに今のカラオケと同じですね。こうした流しですが、店の専属というわけではないから、来て欲しいタイミングでいつも来てくれるわけでもない。それは勿体ないなということで、当時出回り始めたカセットテープに伴奏だけ録音してもらって、お店でカセットテープを流すようになった。これは面白いということで商品化されたのが今のカラオケの起源だろうと。そこに放送業界で使われていたカラオケという単語を当てはめたんじゃないですかね。酒場での歌唱が起源だとすると、遡ると芸者さんが三味線を奏でて歌うのもカラオケの源流の一つと言えるのではないかなと思ったりもします。ともあれ、カラオケが夜の街で生まれたのは間違いないだろうと思います。今ではこれをナイト市場と呼ぶわけですね。

こうして生まれたカラオケの次の大きな変化は映像化ではないでしょうか。ビデオテープもあったんでしょうが、当時は圧倒的にレーザーディスクが使われていたように思います。映像化によって背景映像が付くことも大きな変化ですが、なんといっても歌詞が表示されてリアルタイムに色が変わっていって歌いどころが分かるようになったのが大きい。映像化以前のカラオケでは歌詞が印刷された本を見ながら歌ってたんですよね。これはかろうじて私も経験にあるんですが。ともかく、歌詞がリアルタイムに表示されることで、十分に覚えてない曲でも歌えるようになった。選曲の幅が広がったことはカラオケの普及に大いに役立ったものだと思われます。

次に起こった大きな変化はカラオケボックスの誕生。それまでのカラオケはナイト市場のみで、酒場で歌われるものでした。バーとかスナックとかですね。この場合、カラオケ機器はお店に一つですので、その日お店にいるお客さん全員で一緒にカラオケを楽しむスタイルになります。見知った常連客の場合もあるでしょうが、初めてやってきたお客さんが入ってることもあるでしょう。常連客にしたところで、そのお店でいつも会うというだけで、どこの誰だか知らない間柄です。つまり、ナイト市場のカラオケは知らない人同士で楽しむものだった。それに対してカラオケボックスです。カラオケボックスは個室ですから、同じ部屋に入るのは一緒に行ったグループです。つまり、元から見知った関係同士の人と楽しむものとなった。カラオケがグループで楽しむレジャーの一つになったわけです。デイ市場の誕生ですね。

デイ市場の登場でカラオケ市場は急拡大しました。何といっても昼間に利用できますから、お酒の飲めない未成年や子供でも楽しめるようになりましたからね。中高生のグループが放課後や長期休みに友達同士でカラオケに行くというのは90年代くらいにはありふれた光景になりました。この頃には音楽業界もカラオケ市場を意識しだし、カラオケで歌われるための楽曲づくりというのも行われていました。

カラオケボックスの登場と近しい時期にもう一つ大きな変革が現れます。それは通信カラオケ。それまでのカラオケではテープにしろレーザーディスクにしろ、物理的なメディアが存在しました。物理メディアはデュプリケートするのにも時間が掛かりますし、配送するのにも時間が掛かります。新曲が発表されても、カラオケで歌えるようになるまで時間が掛かったのです。また、物理メディアは場所の制約を受けます。LDチェンジャーを使って大量の曲が収録できるようになったといっても、せいぜいが数百曲程度が上限となります。これらの問題を同時に解決したのが通信カラオケです。曲データはデータ通信で送られますので配送に時間も手間もかかりません。収録曲数の上限も事実上なくなりました。カラオケ機器の HDD に入り切る曲数という上限はありますが、それを超えても中央のサーバからダウンロードしてくればいいわけです。中央のサーバは事実上容量制限がありませんので、ここに曲数の制限が取り払われたのです。初期の通信カラオケではそれまでのレーザーカラオケであった個別の背景映像がなくて見た目として寂しくなっていましたが、IT 技術の発展に伴ってその点も解消されてきました。

さて、カラオケボックスによりデイ市場が誕生しましたが、この時点ではまだカラオケはあくまでもコミュニケーションツールの一種でした。仲間と遊ぶのが主で、カラオケはそのための道具という位置づけです。しかし、ここにカラオケを主にする変革が登場します。それが採点機能。採点機能も最初はグループでカラオケする際の盛り上げるツールとして登場したわけですが、次第に高得点を競うことが目的化します。つまり、歌うことが主目的に変わってきた。こうしてカラオケは趣味の一つとしての地位を確立するようになります。

カラオケが主の立場になると、今度は一緒にカラオケに行く人も変わってきます。今まではそのグループでコミュニケーションするのが目的でしたが、カラオケが主であればそのためのグループを探し始めるようになります。アニソンカラオケオフなど、この時期にはたくさん開催されていましたね。職場や友人のグループで行くカラオケでは歌えないアニソンを思いっきり歌うために、そういうグループを探して参加するようになる。アニソンに限らず、特定にアーティストのファン同士であったりもそうですね。

こうしてカラオケを楽しむことがメインになってくると、他人と一緒に行く必要はないじゃないかという発想が出てきました。一人カラオケの誕生です。当初はグループでカラオケに行く前に練習目的で一人カラオケに行くということも多かったのでしょうが、一人なら選曲にも気兼ねが無いし、他人の歌ってる歌を聞く必要もないし、短時間でたくさん歌えるし、途中で気が変わって演奏中止してもいいし、同じ曲を何度も歌ってもいいしということで、カラオケそのものを楽しむなら一人で十分という考えが生まれました。最初の内は一人カラオケというとお店にも断られることもありましたし、周囲からも奇異な目で見られていました。しかし徐々に一人カラオケが市民権を得るようになってくると、カラオケボックスで一人カラオケ用のプランや部屋が用意されるようになり、ついには一人カラオケ専門店まで誕生しました。

こうして一人で楽しめるようになったカラオケですが、今度はネットで人と繋がるようになります。そのきっかけは全国ランキング。DAM ならランキングバトルONLINE、JOYSOUND なら全国採点グランプリ/全国採点ONLINE ですね。これらのサービスによって全国の会ったことのないライバルとカラオケで競えるようになりました。更に DAM も JOYSOUND も SNS 的な機能を会員サイトに追加して、ユーザ間の交流が行えるようにしました。こうしてカラオケはネット上の人と楽しむという側面も誕生したのです。

カラオケは当然ながら歌うわけですが、近年は歌わないカラオケというスタイルも登場しました。カラオケボックスの音響設備と防音性を備えた個室という特性を生かして映像を視聴するスタイルが登場しました。カラオケメーカーの用意したコンテンツを視聴することもありますし、DVDなど客が持ち込んだコンテンツを上映することもあります。カラオケ機器を一切使用せず、楽器の練習であったり、テレワークのスペースとして利用するほうほうもあります。このあたりになってくるとカラオケの発展形というよりも、カラオケボックスというハードの発展形という感じもしてきますが。

ここまでで触れてきていなかったカラオケのスタイルはまだまだあります。バーやスナックの昼間版と言えるカラオケ喫茶もありますし、ネットカフェやボウリング場などでカラオケルームを併設していることもあります。結婚式場を始めとする宴会場でもカラオケ設備があるのは当たり前ですし、老人ホームなどをターゲットとした市場はエルダー市場と呼ばれています。家庭で楽しめるカラオケとしては、マイクとスピーカーが一体になった機器がありました。今でもあるかもしれませんが。ゲーム機を使ったカラオケソフトもありますし、スマホ用のカラオケアプリもありますね。

夜の街で生まれたカラオケは今や幅広く楽しまれているわけですが、個人的な感想としては近年はカラオケ界をひっくり返すような大きな発明は行われていないなとうい気がします。それだけカラオケが成熟した市場になったとも言えますけれど。とはいえ、イチカラオケファンとしては、さらなる楽しみを提供してもらえるといいなぁと思ったりもします。