45歳定年制について

2021/11/21作成

とある経営者さんが45歳定年制を提唱して大炎上してました。まあ、そりゃそうですよね。経営者の本音としてわからんでもないけど、それをあまりにもダイレクトに出し過ぎたというか、本音だろうけれどそれは下品すぎる本音ですよね。要するに若くて給料が安い人だけをこき使いたくて、年をとって給料あがった奴は首にしたいって話ですから。

と、経営者視点で考えると、本音だけど言ったりやったりしてはいけないことだよねって話なんですが、一方労働者自身の視点にたってみると、ある程度合理的な話でもあるかなと思うんですよ。その辺の思うところを少し書いてみます。

一般に20歳前後で社会に出て、60歳で定年になるとすると、社会人人生は40年になるわけです。45歳定年制というのは、その社会人人生の折り返し点を過ぎたあたりですね。このくらいの年齢になると、ある程度会社の中での自分の置かれた状況というのが見えてくるのではないかと思います。出世コースに乗っていて役員や社長も目指せるって人と、出世コースからは外れてしまって今後会社の中ではあまり活躍できそうに無いという人と。出世コースに乗ってる人は45歳を過ぎても会社としても残ってほしいわけですよね。将来の幹部候補ですから。一方、出世コースから外れてしまった人は、残りの社会人人生を窓際社員、最近の言い方だと妖精さんとして過ごすことになるわけです。経営者として首にしたいのはこちらですね。

妖精さん自身にとって首になると大変ですが、これも考えようだと思うんですよ。今の会社では活躍する見込みはないけれど、何も会社はそこだけではありません。他に会社に行けば活躍できるかもしれません。無能だから妖精さんになってるわけでもないんですよね。長年社会人をやってきて、それなりのスキルと経験を身につけている。でもそのスキルや経験が今の会社とはミスマッチなだけですから。他の会社ではマッチして活躍できるかもしれません。であれば、今の会社に飼い殺しされているよりは、活躍できる会社に転職した方が、当人にとってもメリットのある話ではないかと思うんです。

また、これは社会全体にとってもメリットのある話です。妖精さんは社会に対してあまり価値を生み出しません。言ってしまえば負債状態ですね。でも転職して新しい職場で活躍すれば、社会に対しても価値を提供できるようになるわけですね。であれば後者の方が望ましいわけです。

大体、昔からですが大企業というのは実は人材の供給源でもあるんですよね。新卒で大量に採用して一律に研修を受けさせ、それなりのビジネススキルを身につけさせるわけです。その会社では出世競争に敗れた人も、他の企業に転職していってたわけです。採用や研修が難しい中小や零細企業は、そうした大企業からのおこぼれ人材を中途採用してまかなっているという面もあるんですよね。だから大企業は社内で出世競争に敗れた人は、むしろ積極的に労働市場に放出することが社会全体にとってのメリットになるわけです。

とはいえ、当人からしたら今更転職して新しい仕事を覚えるのなんてやだよと思うかもしれません。というか、むしろそう思うのが当然ですよね。今まで培ったスキルで今の会社に居残れるならそれで十分と思うかもしれません。でもですね、そもそもですが一つのスキルを身につけただけで40年に渡る社会人人生って全うできないんですよ。

これに私が最初に気付いたのは、子供の頃に炭坑が廃坑になったニュースを見たときです。廃坑になりますから、炭坑夫さんは全員解雇されます。みなさん、他の炭坑に職を求めていくわけですが、日本にはもうそんなに炭坑が残っていません。減っていく一方ですから、ほとんどの方は炭坑夫として再就職できないんですよね。

はたから見てる人は、炭坑なんて斜陽産業で働いてるから当たり前だ。そんな愚かな職を選んだ当人の自業自得だと思うかもしれません。でもちょっと待ってください。その人たちが学校を卒業して炭坑に就職した頃って、炭坑は戦後復興と高度成長期を支える花形産業だったんですよ。むしろ彼らはエリートだったわけですね。でもわずか数十年で時代ががらっと変わってしまったわけです。

ここで私が思ったのは、一つのスキルだけを身につけて社会人人生を全うするのは不可能なんだなということです。昔なら、若い頃に身につけたスキルで生きていけたでしょう。そもそも寿命が短かったという話もありますし、時代の移り変わりがゆっくりでしたから、数十年の間に社会が大きく変革することもありませんでした。しかし、科学が発達した現代ではめまぐるしく社会の構造が変わります。5年前10年前の花形産業が斜陽産業になるのなんて当たり前のことです。

衣食住など、人間が生きていくのに必要な職業はいつの世になっても必要とされるから食いっぱぐれることがないと言われます。それ自体は事実ですが、それぞれの産業構造もめまぐるしく変化しています。昭和の頃までは個人で定食屋を経営していれば一生食べるに困らなかったでしょう。でも今の時代に個人営業の定食屋でやっていくのは至難の業です。衣も住も同じです。近所の洋品店で服を買う人は今どれくらい居るでしょうか。大工さんが若い頃に身につけたスキルは、今の建設現場でどれくらい通用するでしょうか。どれも難しいですよね。

つまりですね、今の時代においては若い頃に一つのスキルを身につけるだけではダメなんですよ。10年後も20年後も、常に時代の変化に合わせてその時代に必要とされるスキルを身につけないと通用しないんですね。そういう意味で45歳定年制はありではないかなと私は思うんですよ。

また、この傾向はより強まっていくんですよね。定年は60歳から65歳へ、さらに70歳へと延びていきます。つまり社会人人生はそれだけ長くなるんですね。一方社会の変革スピードは上がっていく一方ですから、社会人人生の中で何度もスキルの学び直しをしなければならないわけです。そんな大変な世の中イヤだと言っても、現実にそういう社会になってしまっていますので、生きていく為にはそれに合わせていくしかないわけですね。