私が同人誌を作る理由

2020/11/30作成

何度かこの日記でも書いてますが、私は同人誌を作ってコミケなどの即売会で頒布するという趣味をもっています。

ちなみに同人誌というと世間的には18禁2次創作を思い浮かべるかもしれませんが、私が作っているのは評論・情報系と言われるものです。まあ、要するに、このサイトで書いてるような文章を同人誌にしてるわけですね。逆に同人誌に書いたことをこのサイトに転記していることもあります。

また同人誌というと儲かってるというイメージもあるかもしれませんが、それはごく一部のサークルの話です。私のサークルを含め、ほとんどのサークルは赤字で全く儲かって無く、むしろお金をつぎ込んで同人誌活動を行っています。って、趣味でやってるんだから、趣味にお金がかかるのは当たり前のことなんですけどね。

私のサークルでは、他のメンバーが作る本は中ヒットくらいを飛ばすこともあるのですが、私の作ってる本はほぼ売れません。発行部数もせいぜい10部から20部くらい。作っても広く読まれることもないわけですが、それでも同人誌を作って即売会に参加しています。

さて、その同人誌を作ってる理由です。第一はなんといっても面白いから。趣味でやってるんだから、当たり前っちゃ当たり前なんですけどね。面白いといっても、同人誌作ってたら常にアドレナリン全開でやめられねぇ止まらねえ、ってほどではないです。実際には原稿書くのめんどくさいなぁと思ったり、なかなか筆が進まなかったりすることも多々あります。それでもまあ、単純に本を作るのって楽しいんですよ。印刷してできあがった本を手にすると、やっぱり感動しますし。

本を作るだけではなくそれを即売会で頒布することで、出版社ごっこと本屋さんごっこが体験できるのが楽しいというのもあります。同人誌ですからテーマは自分の書きたいことなんですが、それをどう料理するか、表紙やタイトルはどうしたら興味を持ってもらえるか、宣伝はどうしたら知ってもらえるか、当日即売会で手にとってもらうにはどんな展示方法にすればいいか、などを考えて実践するのはなかなか楽しいです。なお、これはあくまでも趣味でやってるから楽しいのです。出版社や本屋に転職して本業にしたら、これらの活動をビジネスとして成り立たせることが常に求められます。そうするといくら楽しい活動でも、イヤになることも出てくるでしょうし、しんどくてもうやめたいってこともあるでしょう。しかし、趣味でやっているのであれば、自分が楽しいという利益を得ている限り、他の損失は一切無視できますし、やりたくないときはやらなくていいという選択も出来るのです。

これらが内面的な理由ですが、外面的な理由もいくつかあります。一つは、これが文化のピラミッドの裾野を広げることになるだろうという期待。どんな分野でも言われることですが、ピラミッドの裾野が広がれば広がるほど、ピラミッドの頂きも高くすることができます。野球で例えれば、イチローは偉大な野球選手ですが、イチロー一人で野球ができるわけではありません。頂点だけを見ていれば、イチローだけが野球をやってればそれで十分に思えてしまいますが、実際には頂点だけではピラミッドは成り立たない。毎年1回戦で敗退する高校球児や、試合後のビールの方が楽しみな草野球オヤジなどが野球というピラミッドを支えているから、イチローの頂きが高まるのだと思います。

同じことが私の同人誌にも言えると期待しています。私が作った同人誌が文化を作ったり変えたりすることはまずないでしょう。でも私の作った本というピラミッドの裾野があることで、偉大な作品が生まれる礎になるのではないかと期待しています。実際にはそこまで犠牲的精神ばかりというわけではなく、せめてピラミッドの中腹くらいになれればいいなぁという欲ももちろんあります。

また、多様性の確保にも一役買っていると思っています。多様性と言えば生物の遺伝子ですが、ほとんどの遺伝子の変異は子孫を残すことなく死滅してしまいます。ごくわずかな変異だけが進化になれるのです。結果だけを見れば、進化する変異だけを起こせば十分で他は無駄に思えますが、実際にはどんな変異が進化につながるかは、変異してみなければわかりません。何万回何億回という変異のチャレンジの果てに進化があるわけです。

同じことは文化にも言えると思います。私の作った同人誌が文化の進化に役立つことはまずありえないでしょう。だからといってそれが無駄とは限りません。多数の変化のチャレンジの果てに、ごくわずかな文化の進化が得られるわけです。これもある意味でピラミッドの裾野ですね。

そして最後に、作品の場合は広まることだけが価値ではないということもあります。何百万部も売れるベストセラーだけが偉いのではありません。そりゃベストセラーは偉いけれども、極端な話として1部しか売れなかった本だけれど、その本を読んだ読者に深い感動を与えたとしたら、その本は十分に生み出された価値があるのではないでしょうか。ま、私の作った本を読んで感動する人がいるとは思えませんし、そもそもテーマが感動するようなものではありませんけれどね。でも、多少なりとも参考になったり、ふむふむと思ったり、くすっとでも笑ってもらえたり、そうした心の動きが読者の中に起こったとしたら、それで同人誌を作るという活動は十分に満たされていると思ってます。

(2020/12/3追記)

出版社ごっこ、本屋さんごっこについて追記なんですが、同人誌でやってると全工程を一人で見れるってメリットもありまして。職業としてやっていたら大抵は分業になりますから、自分の担当工程以外はみれないんですよね。上流の工程で行った施策が下流の現場でどのような効果を出したかって、職業でやってるとなかなか見えてこない。でもこれを趣味の同人誌でやってるとちゃんとわかる。

ちょっと意味的にずれるけど、プロの漫画家さんや作家さんで同人活動をしてらっしゃる方の中には、この理由を挙げてらっしゃる方もいらっしゃいますね。仕事でやってる場合は読者のリアクションなどはどうしても遠く感じてしまうんだけど、同人誌で即売会で頒布していると、ダイレクトに感じられる。もちろん人によって理由は様々でしょうし、同人活動していない作家さんが読者を軽視しているわけでもないんですが。