「がんを病む人、癒す人―あたたかな医療へ」比企 寿美子

2007/6/25作成

筆者の夫の親友である恩チャンのがん発見から闘病と死をベースに、様々な人のがんとの関わりを書いた本。当たり前だが、重い。登場する人々は中にはがんから生還する人もいるが、実際には大半が亡くなってしまうわけだから。

考えてみれば、がんは残酷な病気である。日本人の三大死因であるがん・脳卒中・心筋梗塞のうち、がんをのぞいた二つは急性の病である。発症して亡くなるとしたら当日か数日のうちのこと。亡くなる当人にとっては病に向き合うどころか、それを知る事すら無く亡くなってしまう場合もある。一方、がんはいくら末期であろうとも当日に死ぬ病気ではない。せいぜい余命数ヶ月と診断されるだけである。告知を受けたとしたらであるが、当人はそれから亡くなるまでの数ヶ月間を死の恐怖と戦いながら過ごさなければならない。本人に告知しなかったとしても、家族は知る訳だから今度は家族がその苦しみを代わらなければならない。

ところで恩チャンは現役の医師であった。それがたまたま受けた人間ドックでがんが疑われたが、精密検査を1ヶ月近く逃げ回る。観念して検査を受けてがんと診断され闘病が始まってからは精神が不安定になり家族にあたりまくり。最後には宗教に救いを求める。医師も医師である前に人間なんだということなんだけど、患者として受診するだけの立場としては正直それはどうよと思わなくもない。

筆者は医師ではないが、筆者の父も夫も子供も友人も皆医師である。結果、この本は医師の立場から書かれている。医師と患者という二元的な捉え方は単純すぎるが、あえてその分類を行うと患者の立場からすると、それはどうよと思う点もなくはない。例えば、大学病院の医師は薄給であるとか、医師は家族を犠牲にして患者のために尽くしているとか言われても、患者としてはだからどうしたとしか言いようがない。それだけ医師はすばらしいんだから尊べというのだろうか。医師の待遇が悪いのならば、それを改善するようにすればいいと思うのだが。弱者である患者にそれを押し付けてどうしようというのだ。