「なぜ倒産 平成倒産史編」日経トップリーダー

2022/9/4作成

24もの会社の倒産事例を紹介した本です。これは非常に参考になる。当事者は非常に失礼なのですが、面白いです。面白いと言って語弊があるなら興味深いというか。

「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」という言葉があります。勝負事はセオリー通りにやったところで、絶対に勝てるわけではありません。万全を尽くすのは当然としても、結果として勝つかどうかは運に任せるしかありません。一方、負けはセオリーがあります。こんなことしてたら絶対に勝てないよねって方法を採っていれば必ず負けることができます。ある意味簡単。

そして会社経営も勝負事と同じなんですよね。成功した経営者による経営指南本が本屋に行けば山のように売っていますが、その本の通りにしたら絶対に成功できるかというと、そんなことはない。成功率はある程度高まるでしょうけれど、最終的に成功するかどうかは運などの他の要素の影響も強い。

一方、経営においても失敗する方法があります。こちらはやったら必ず失敗出来る方法なんですが、残念ながら失敗した経営者は寡黙です。自らの失敗を詳らかに語ってくれるような人は奇特なんですよね。また、もしも語ってくれる失敗経営者が居たところで、そんな人の本を買ってくれる読者ってのもあまり居ません。みなさん、成功譚の方がお好きなんですね。気持ちはわかりますが、経営の勉強という意味では実は失敗談の方が役に立つんですけどね。

ということで本書は非常に希有な経営失敗談集なので、とても参考になるのですが、一方で読んでいてなんかもやもやするものも感じました。そのもやもやが何かというのが何となく言語化できたので書いてみます。ふう、長い前書きだった。

そのもやもやの正体というのは、本書は基本的に未来視点で書かれていること。それぞれの経営者が失敗の経営判断をした時点において、当たり前ですが経営者が未来に何が起こるかを知らないんですよね。言葉にすると、とても当たり前ですが。未来において、経営者が予測したのとは違う事態が発生したために倒産してしまった。未来視点で見れば誤った判断であったと言えますが、当事者にはその未来はわからないんです。それを未来の視点から指摘するのは、事後諸葛亮と言えるのではないでしょうか。

実際、正反対の結果論が書かれていることもあります。「新規事業に投資したことが倒産の原因」というのと「旧来のビジネスに固執し新規事業の開拓を怠ったのが倒産の原因」というのが両方載っていたりするわけです。それぞれ個別にはさらにたくさんの要素が絡むので一概には言えませんが、ここだけ見ればどっちやねんってことになりますよね。

経営判断と言いますが、判断全てにおいて言えることですが、その時点では未来がわからないので正解の判断というのはありません。そこが正解の存在する試験問題との違いです。まあ、明らかな誤りってのはありますよ。ナイジェリア詐欺にひっかかったとか、同族会社でお家騒動にあけくれたとかは、そりゃまどうやったって正当化出来ません。でも果たしてどっちが正解かわからないケースも多々あるわけです。むしろ経営してれば、そんな判断の連続です。正解が存在しないからこそ、情報を収集し、少しでも成功確率が高そうな手を選択するのが経営判断というものでしょう。収集した情報に漏れがあったのなら誤りですが、予想し得なかった事態が発生して失敗したのなら、それは経営判断の誤りとは言えないと思います。

全ての事業は単純化すると、資金が枯渇する前に事業が黒字化するかどうかというチキンレースです。本書で失敗となじられている新規事業投資も、もしかしたらあと半年続けていたら黒字化していたかもしれません。ならばその失敗の原因は新規事業に投資したことではなく、あと半年分の資金を調達できなかったことですよね。実際、ぎりぎりのところで黒字化して事業を継続できたなんてことは、経営していれば日常茶飯事です。倒産しなかったから正当化されて、倒産したから非難されるのでは、なんだか割に合わない感じですよね。

ということで、個人的には本書を読んでも「必ず失敗する方法の話」とは思えませんでした。成功するか失敗するか、紙一重だったんじゃないかと思える例がいくつもあるように思えます。こういう失敗のパターンがあるという参考にはなりますが、それ以上のものではないように思いました。