フリーランスの節税

2012/9/12作成

フリーランスになったらサラリーマン時代とは違って自分で確定申告しなければなりません。この確定申告のやり方によって、税金の額が随分と変わってきてしまいます。「使い切れないくらい稼いでいるから気にしない」とか「税金はたくさん払って国や社会に貢献するんだ」というような人は気にしなくていいと思いますが、大抵の人にとっては収める税金は多いよりは少ない方がいいのではないでしょうか。

サラリーマンでしたら給与所得控除という莫大な節税策が自動的に適用されるので、節税について特に考える必要はありませんでした。多くのサラリーマンにとって節税とは医療費控除か住宅ローン控除のどちらかでしかないでしょう。しかし、フリーランスには給与所得控除などという便利な制度はありませんので、自分で節税策を講じないと過大な税金を払ってしまうことになりかねません。

まずは経費

節税の基本はいかに所得を減らすかです。と言っても、売上を計上しなかったり、私的な支払いを経費として計上するのは脱税ですので絶対にやってはいけません。脱税は犯罪ですし、追徴課税で本来の税金の何倍もの支払いが待っていますので金銭的にも割りに合いません。

そうではなくて、事業のために支払ったお金はきちんと経費として計上することによって所得を減らして節税につなげましょうということです。ボールペンを1本買っても、それを仕事に使うのであれば領収書を取っておいて経費として計上出来ます。ボールペン1本では節税効果もしれたものですが、それを繰り返すことで「ちりも積もれば山となる」となります。普段の支出で経費として計上できるものが漏れていないか、あらためて振り返ってみる価値はあるでしょう。

所得控除とは

まず前提として知っておかないといけないのは所得控除とは何ぞやということです。主たる税金である所得税は所得に対して掛かってきます。所得とは、収入から各種控除を除いた金額です。収入は、売上から経費を差し引いたものです。年商1000万だとしても、1000万全部に対して税金が掛かるわけではありません。まず経費を引いて、更に控除額を差し引いた残りの金額に対して所得税が掛かるわけです。

年商1000万で経費が300万だとしたら収入は700万円。控除がゼロなら700万円に対して所得税が掛かります。ここで所得控除として100万円を計上できれば、差し引いた600万円に対してのみ所得税が掛かるわけです。勘違いしないで欲しいのは、だからと言って所得税が100万円安くなるわけではありません。あくまでも所得税の計算の元となる所得が低くなるだけです。所得税率が20%だったしたら、所得700万円なら所得税は140万円。所得600万円なら所得税は120万円。その差は20万円ということですね。所得控除が100万円なのに対して20万円しか節税できないので、手間に対してあまりお得感が感じられないかもしれませんが、ちょっと注意して欲しいのは、これは所得税だけに限らないということです。一般に住民税が所得税と大体同額掛かってきますから、更に20万円節税できます。更に言うと、フリーランスが加入する国民健康保険の保険料は住民税に連動しますので、こちらも安くなります。ですので、所得控除の金額を少しでも多くすることが重要です。

青色申告控除
フリーランスの節税としてまず挙げられるのは青色申告控除だと思います。複式簿記による正規の帳簿を作成し、確定申告時に決算書を提出することで、最大65万円の所得控除が受けられます。複式簿記というと、経験のない人にとっては難しいものに感じるかもしれませんが、実際にやってみるとそれほど難しいわけではありません。記帳の手間もそれほど掛かりません。手書きで記帳していた時代ならともかく、今は会計ソフトがあります。仕訳さえちゃんとできれば、あとは転記も試算表や決算書の作成も全て会計ソフトが自動的にやってくれます。それにきちんと帳簿をつけることによって、どのような経営状態にあるかも把握できるようになります。たくさん稼いでいるフリーランスなら、税理士さんに全てお任せするという方法もあります。
小規模企業共済
フリーランスの退職金積立制度として小規模企業共済というものがあります。退職金と言っても自分で積立金を支払うのですが、その掛け金は全額が所得控除の対象になります。最大月額7万円まで掛けることが出来ますので、年間で84万円まで所得控除を受けることが出来ます。老後の蓄えのために株を買ったり養老年金などに入っている方もいらっしゃると思いますが、それらの掛け金は所得控除の対象にはなりません。所得控除を受けられる小規模企業共済は、税金が安くなる分実質的に利回りがよくなります。
国民年金の一括払い

フリーランスは国民年金に加入するわけですが、この年金保険料を節約する方法があります。年金保険料の節約ですから、節税策とは厳密には違うのですが、税金と社会保険料は合わせて社会負担金ですので、国民年金保険料を節約するのも節税策の一環といえるでしょう。

さて具体的な国民年金保険料の制約策ですが、それは保険料の一括前払いです。2012年の国民年金保険料は一ヶ月に14,980円ですので、年間179,760円となります。これを1年分一括前払いすると3770円が割り引かれます。まあ大した金額では無いといえばそうなんですが、超低金利の時代において20万円を定期預金していたところで、1年間に3000円もの利子がつくわけではありません。そう考えると預金して寝かしておくよりは、少しでも有効に活用した方がお得ではないでしょうか。

国民年金基金

日本の年金制度は歴史的な理由もあって非常に複雑多様になっています。これを統一・簡素化するのがここ十年の大きな政治的課題になっているのですが、小泉元首相はもちろん改革をマニフェストに掲げた民主党も全く手をつけることが出来ていません。まあそんな政治的な話はともかくとして、現実問題として日本の年金の仕組みは複雑怪奇になっているのです。なので私もその全貌を知っているかというとそうではないのですが、概略くらいは理解しているつもりです。その一つが年金の2階建て、3階建てといわれるものです。

この場合、1階部分というのは国民年金が該当します。これは全国民に共通です。2階3階部分はサラリーマンの厚生年金と公務員の共済年金にしかありませんでした。2階が無いのでフリーランスには3階も当然にありません。で、その不公平を是正する策として登場したのが国民年金基金です。これはフリーランスにおける2階3階部分に該当します。国民年金基金の掛け金も当然に自分で支払うのですが、掛け金の全額が所得控除の対象になります。小規模企業共済と同様に、所得控除によって節税になる分、実質的な利回りが随分よくなります。

法人成り

最後に究極の節税策である法人成りについて簡単に説明しておきます。法人成りとは個人事業から法人=会社を設立するということです。以前は一人では会社を設立できなかったのですが、2006年に会社法という法律が出来てから一人でも会社を作れるようになりました。

さて会社を設立するとなぜ節税になるのでしょうか。以前に言われていた理由は、個人に対する所得税は累進課税であるのに対して、法人は定率課税であるということでした。そしてその税率の差が大きいため、大きく稼ぐようになったフリーランスは法人成りを検討するのが一般的でした。今でも芸能人などが個人で会社を設立していたりするのは、そういう理由からです。

ただ、何億円も稼ぐ芸能人はともかく、稼いでも何千万程度のフリーランスの場合はこうした税率差による法人成りのメリットはほとんどなくなってしまいました。それは所得税が累進課税であることは今でも変わらないのですが、最高税率が随分と軽減されたからです。なので、法人成りをしても税率差という意味では大した節税にはならないのです。

では今では全く法人成りにメリットが無いのかというと、そういうわけでもありません。以下の二つの理由において、今でもまだ法人成りのメリットは残っていると私は考えます。

一つは会社を設立して自分が会社から給料を貰うことにすると、そこで給与所得控除が受けられるということです。冒頭にも書きましたが、給与所得控除は莫大ですので、その節税効果も大きいです。

もう一つは社会保険負担についてです。と言ってもこれは家族が居て、しかもその家族を扶養している方しか享受することが出来ません。具体的にはどういうことかというと、フリーランスが加入する国民健康保険は加入者の人数に対して保険料が掛かるのです。ですので、扶養している家族が多ければそれだけ国民健康保険料も高くなります。それに対してサラリーマン(法人成りしたらフリーランスもサラリーマンです)が加入する社会保険では、基本的に被扶養者の保険料はタダです。その差は扶養する家族が多くなるほど大きくなりますね。

もう一つは年金保険料です。フリーランスの加入する国民年金では、扶養されている配偶者も個別に国民年金に加入して保険料を払わないといけません。配偶者の年収がゼロであってもです。一方、厚生年金では扶養されている配偶者の年金保険料はタダです。この差もかなり大きいですね。

ということで、現代でも法人成りの金銭的なメリットは残っているのですが、一方で会社にしてしまうとその事務手続きがかなり大変です。設立も個人事業主のように税務署に書類を1枚出せばいいだけではなく、法務局に行って何枚も面倒な書類を提出しなければなりません。普通はこれは自分ではできませんので、司法書士さんや行政書士さんにお願いしなければなりません。税務処理も個人事業に比べると飛躍的に難しくなりますので、こちらも税理士さんに頼まなければなりません。そうした依頼費用も考えると、トータルではどちらがお得かというのも難しくなってしまうでしょうか。