大谷選手は聖人君子なのか

2023/12/18作成

7億ドル中97%後払い契約を結んだ大谷さん、アメリカでは「理解しえない生物」「勝利ジャンキー」と尊敬よりも畏怖され始めているらしい

大谷選手のほぼ全額後払い巨額契約が、自分を捨ててチームに尽くす姿勢として素晴らしいと賞賛されていますけど、どうなんでしょうか。まとめの中でも賛否両論ではありますが。以下、本来なら米ドルのお話ですが、めんどくさいので10年1000億円の契約という日本円で考えます。

商売の原則として、お金を支払うのは後になればなるほど有利です。これを期限の利益と言います。そういう意味では報酬の大半を10年後に後払いにしたという大谷選手本人は損をしてることになりますね。ただし、この契約には附帯条項があるそうなんですよ。後払いにした分のお金は強化に使う、つまり他の有望選手の獲得資金として使うことなんだそうですね。「ドジャースは1000億円を10年間運用して利益を得られるのでお得」って書いてる人がいますけど、そんなことはないと。そもそもドジャースは現在1000億円のキャッシュを持っているわけではないでしょう。せいぜい1年分の100億円。しかもその100億円も他の選手の年棒に使わないといけないわけですから、投資になんて回せませんよね。

とはいえ大谷選手は10年間はほとんどお金を受け取りませんから損をしているのには間違いなさそうですが、これはそんなに無私無欲によるものなのか。どうやらそうではなさそうです。あくまでも球団が強くなるためという意味ではチームに貢献する話ですが、それも大谷選手が現役として在籍する間だけの話ですよね。10年後以降はドジャースは弱小球団になることは約束づけられてしまっていますから。どういうことかざっくり書き出してみましょう。

ドジャースの選手年棒の年間予算が200億円だとします。大谷選手への後払いにしなかったとしたら、100億円は大谷選手のものです。ドジャースは残りの100億円で他の選手の報酬を賄わなければなりません。選手年棒の合計がチームの戦力そのものではありませんが、指標にはなります。ドジャースは200億円の戦力があるということですね。

しかし大谷選手の100億円は後払いなので、この100億円も他の選手獲得に使えます。つまり、ドジャースとしては200億円の予算を使って300億円分の選手を集めることが出来る。優秀な選手を集めればそれだけチームが強くなりますから、ワールドシリーズ制覇の可能性も上がるわけです。契約の文言一つで100億円分の戦力を生み出した、これが大谷マジックというわけですね。

ここだけみれば大谷選手は無欲で素晴らしいというところですが、では10年後にはどうなるでしょう。ドジャースは後払いにしていた大谷選手への報酬支払いが始まります。引退して戦力ではなくなった大谷選手に毎年100億円を支払わなければなりません。年間予算は変わらず200億円ですが、実際に戦力となる選手年棒として使えるお金は100億円しかありません。明らかにチームが弱体化するわけですね。単純に言ってこれからの10年間はドジャースは黄金期を迎え、10年後以降は暗黒期になることが約束されたと。大谷選手は自分が現役でいる間だけチームが強くなれば良いと言ってるようなもので、これは無私無欲な聖人君子というよりも、自分が居なくなってからあとのことを全く考えていないエゴイストと言っても過言ではないのではないかと思います。まあ、現実にルールに穴があったからそれを利用しただけですから、それを責められるわけではないかもしれません。ルールハックをしているという意味では立花孝志さんの同類と言えるんじゃないかなという気がします。

エゴイストな大谷選手ですが、別にそれは責められる話でもありません。誰だって自分が一番かわいいですし、選手として最高名誉であるワールドシリーズ制覇に向けて取れる限りの手段を取ろうというのはむしろ好ましい資質でしょう。それがグラウンドの中であろうが外であろうが。これで10年間の間にドジャースがワールドシリーズ制覇出来れば、そのあと暗黒期を迎えようとも万々歳です。ただ、そうすんなりといくかどうか。このあとのシナリオは三つくらいあると思います。

まず一つ目は他チームも同じ戦略を取ること。有力選手との契約で報酬後払いにして戦力アップを図ろうとするでしょう。だって、ほっておけばドジャースの一人勝ちになるわけですから、それを他球団が放置するとは思えません。ドジャースとしてはチート技によって無双しようとしていたのに、他球団もチートすることによって結局は戦力均衡してしまう。つまり、大谷選手のせっかくの策が無駄に終わると。それに加えて、選手年棒はこの10年間は暴騰します。各チームが使える予算は見かけ上大幅に増えるのに対して、選手の数は変わりませんからね。これは選手みんなにとって大きな恩恵で、いわばオオタニノミクスなわけです。ただし、10年後からは選手全体の年棒が激減します。その頃の選手からは大谷選手は大きな怨嗟を受けそうな気がしますね。

二つ目のシナリオ。さすがにこのチート技はいかんだろうということで、ルールが改定されること。というか、こんなチートが見つかって放置されることはないでしょうから、今シーズンは無理でも来シーズンにはなんらかの改定が入るでしょう。そうすると他チームはチート技を使えませんから、ドジャースだけが無双できます。大谷選手の考えた通りのシナリオってことです。

三つめは、ルール改定が大谷選手の契約にも適用されること。既に終了したシーズン分は無理でも、これから先のシーズンの報酬については後払い契約は無効ってことになると。そんな改定が法的に可能なのかどうかはしりませんが、10年間チートを放置するのも問題ですから、なんらかの手は入るんじゃないかなという気はします。ルール改定が大谷選手にも及んだら、チートは封じられるので、ドジャースは無双できずに今までと変わらず公平な戦力で戦わなければなりません。リーグとしてはこのシナリオがもっとも健全な気がしますね。