「アイヌの碑」萱野 茂

2007/3/12作成

アイヌ人初の国会議員で知られる萱野茂氏による、萱野氏の半生と一族の話。

アイヌというと当然のことながら和人による迫害の歴史があるわけだけど、この本ではそういった話は俯瞰的には語られない。その代わり、筆者の祖父や父、自身がどのような扱いを受けてきたかを克明に記す。はっきり言って、和人である自分にとっては読むのが辛い。

萱野氏が凄いなと思うのは、生活にわずかに余裕が出来た段階で、その余裕を自分のすべきと思うアイヌ文化の保存と継承のために費やしたこと。これってなかなかできんよ。大抵の人は、もっと余裕があればするのにと思って、実際にはいつまで経ってもできない。何か行動する人は、そういう点が違うのかなぁと思った。

ところで、そのアイヌ文化の保存と継承に疑問がなくもない。別にアイヌに限った話ではないけど、おみやげ物として制作して売られる民具。本来なら数年に一度しか行わない儀式をショーとして観光客相手に毎日行う。確かに形として文化は保存されるけど、それは果たして保存になるのかどうか。いや、だからといって失われるに任せればいいかといえば、そう考えているわけでもないんだけど。こういうテーマのときに、どうするのがよりよい手段なのか、なかなかいい考えが浮かびません。

ところで、この本を読んでから調べて知ったんだけど、萱野氏は去年亡くなっているんですね。願わくば、萱野氏の魂がアイヌの神の国にたどり着けんことを。