「温泉教授の温泉ゼミナール」松田 忠徳

2007/3/5作成

自然の温泉のみが健康に良いとか、塩素はとにかく毒だとか、温泉力とか、少々とほほな出だし。「真に天然の温泉のみが健康に良い」なんて書かれてるけど、真に天然の温泉の火山ガスで死者も出たりするんですけれど。温泉力なんて、マーケティング用語としてならオッケーだけど、仮にも「温泉学」と名乗っているなら、そりゃないんじゃないの。人文科学分野とはいえ、大学教授なんだし。

と思いながら読んでたんだけど、途中から考えが変わった。この人、本気で温泉好きやわ。筆者自身は嫌だけど、循環風呂の存在も認めた上で、そのディスクロジャーが必要という姿勢は正しいと思うし。

ところで筆者は1998年から99年にかけて、全国の温泉行脚の旅行をおこなったらしい。偶然だけど、私が日本半周のツーリングをしていたのも1998年のこと。ツーリング中には本書で批判されている公共の温泉施設も含めてあちこち温泉にも浸かったもんである。そういう意味で、筆者にはちょっと親近感がわく。もしかしたら、どこかの温泉で一緒に浸かっていたかもしれないし。

循環風呂自体は悪いものではないが、運用として何日も湯を入れ替えて無い場合があるという問題点はこの本で初めて知った。街の銭湯でも毎日湯を入れ替えてるんだから、温泉施設だったら替えてくれよ。でも、そう考えると24時間営業の温泉施設はかなり危険ってことやな。

循環風呂の場合は塩素による殺菌が必要なのは当然だけど、一時期レジオネラ菌感染による死者が続出したときに、源泉掛け流しの温泉にまで保健所による塩素殺菌の指導があったなんて本末転倒な話もあったというのは、本当だったとしたら確かに情けない話だ。

本書の発行は2001年。白骨温泉、伊香保温泉に端を発した温泉偽装問題は2004年だから、それよりも前。温泉について様々な問題意識を持っていた筆者も、まさか入浴剤入りの温泉があるなんて思いもしなかっただろう。それでも、温泉偽装問題によって加水や加温の問題が知られるようになったのは一定の進歩だろう。でも温泉偽装問題では本書でメインで指摘している循環風呂問題は出てこなかったなぁ。

今後、温泉に行ったときは循環かどうか気にしようと思ったようになったということは、筆者の論にまんまとはまったということだ。まさに筆者の思うつぼである。

ちなみに温泉偽装問題をきっかけに温泉法が改正され、温泉施設では源泉についてのみならず、実際に入浴する温泉について循環・加水・加温などの有無を掲示することになった。最近、とある温泉に行ったときに気がついて見てみたところ、確かにそのような掲示があった。筆者の思う問題提起から一つの解決がなされたわけだ。よかったよかった。