「キヤノン特許部隊」丸島 儀一

2007/2/28作成

キヤノンの特許部門を率いた丸島氏へのインタビューを中心にまとめた本。なかなか面白い。ここまで10冊くらい読んできてわかったけど、私は筆者なり誰かの実体験に基づいた本を面白いと感じるみたいやね。実体験がベースといいつつ、高所から見下ろすような視点で書かれた本はいまいちと感じるみたい。

丸島氏の教えのなかで、源流に入れというのがある。いわく、特許担当者は開発者の書いた書類を申請書に書き直す代書屋ではなく、開発作業自体に深くかかわって、特許の視点からその発明の何が価値をもたらすかを見つけ出せと。これは私の職業であるソフトウェア開発でもあてはまることなんで非常によくわかる。ソフトウェア開発でも、依頼者の言われた通りに開発したら中途半端なものしかできない。依頼者のニーズがどこにあるかを源流に入り込んで知ることによっていいソフトができるようになる。ただ、こういった源流に入り込むのにも限界があって、一人の人間が特許にも技術にも精通しているだけじゃなくて、法律から経理から経済、政治、国際情勢、市場、営業などあらゆる面について目を配らないとベストの判断ができないということになってしまう。それができれば一番いいんだけど、現実には人間の能力はそこまで高くない。

キヤノンは特許部門も売上を上げると世間で評価されている事に対して、丸島氏は「売上を上げるだけなら簡単。知財を売りまくればいいんだから。でもそれをしてしまうとメーカーとして将来困った事になってしまう。メーカーの戦略を考えた上で売らなければならない」とするのは、なるほどなと思った。

ベンチャーがライセンサーになっていて倒産すると困ると言うのはなるほど。ちょっと違うけど、知財を抱えたまま倒産して困ると言う話は聞いたことがあるけど。

キヤノンが世界の多数の企業と戦略的にクロスライセンス契約を結んでいるというのは、一企業の戦略としては正しいと思うけれど、世のすべての企業が同じ事をやりだすとクロスライセンス契約が企業数の2乗になってしまって破綻してしまうような気がする。具体的にはうまくイメージできないけど、特許の公設取引所みたいなものがあるとうまくいかないかなぁ。

ところで、特許というか知財といえば、そもそも特許自体が必要かどうかという問題もある。特許制度にしても著作権制度にしても様々な問題を抱えているのは確か。こういった問題についての丸島氏の意見が聞けると面白そうな気もするんだが、残念ながら本書にはそういった点は書かれていない。